横綱鶴竜(33=井筒)が完勝で2敗を守った。初顔合わせの竜電に鋭い踏み込みで低く当たり、あっという間に体勢を整え、左四つで寄り切った。

トップから転落した前日夜、自宅で長男アマルバイスガラン君の2歳の誕生パーティーで気分転換し、心機一転。この日、1敗の朝乃山が玉鷲に敗れたため再びトップに並び、6場所ぶり6度目の優勝を視界に入れた。関脇栃ノ心は2連敗、大関再昇進はまたお預けになった。

鶴竜が、結びの一番で横綱らしさを見せた。スピードあふれる竜電より速く低く、立ち合いで当たり、右でまわしをつかんだ。左は巻き替え、差し込んだ。一瞬間を置き、相手が前に出るタイミングで体を入れ替え、一気に寄り切った。

「しっかり、自分の相撲に集中できました」。前日は自分も含め、関脇以上が全敗する49年夏場所の15日制定着後初の波乱があった。この日も2敗だった栃ノ心、1敗だった朝乃山、大関高安が敗れた。自分の取組前の嫌な流れ。「それ(にはまったの)が昨日だったのかもね。どっかで“勝ちたい”と思ってしまう。“戦う”という気持ちじゃなく」。この日は邪心のかけらもなかった。

完璧な再スタートの立役者は長男だ。前日は妙義龍に「自分が1番とりたくない相撲」で引いて負けた。自宅に戻り、アマルバイスガラン君の2歳の誕生日を家族で祝った。自分がNBAなどバスケットボールが好きだから、子供用の小さいゴールをプレゼント。そして笑顔に癒やされた。

最近、自分が「ヨイショッ!」と言えば、長男は四股を踏む。「かわいいんです」。だから負けられない。「今日は終わったんで、明日集中するだけ」。朝乃山が負け、再び優勝争いのトップに並んだ。自分を取り戻した横綱は、もう負けそうにない。【加藤裕一】