<大相撲名古屋場所>◇8日目◇17日◇愛知県体育館
綱とりに挑む大関稀勢の里の弟弟子、小結高安(26=田子ノ浦)が三役初勝ち越しに王手をかけた。過去3勝17敗と苦手な西前頭筆頭の栃煌山を突っ張って中に入れさせず、はたき込み。横綱、大関以外で1人、1敗を守った。人間国宝から贈られた扇子の言葉「かま・わ・ぬ」の精神で、兄弟子の援護射撃のみならず、自らも優勝争いを演じる。白鵬と日馬富士の両横綱と稀勢の里も1敗で折り返した。
安堵(あんど)の息が漏れたのも、無理はない。幕内で一番対戦し、17敗と最も負けている栃煌山が相手。高安は勝ち方よりも、勝つことに全てを懸けていた。それだけに「結果オーライです。本当にうれしい」と素直に喜んだ。
懐に侵入を許せば負け。「中に入れさせたくない」と突っ張りを貫いた。それが相手をいら立たせた。栃煌山には珍しい張り手。冷静さを失わせた。その瞬間に頭をつかみ、はたき込み。「冷静に冷静にと思い、肩に力が入らないようにした」。明と暗が際立った。
1月、新内節(しんないぶし)の人間国宝で鶴賀流11代家元の鶴賀若狭掾(つるが・わかさのじょう=78)と食事をした際、1本の扇子を贈られた。広げると「鎌」の絵と「○」「ぬ」の文字。意味を文字や絵などに隠す、判じ物と呼ばれる言葉だった。その意は「かま・わ・ぬ」。「人から何を言われようと構わぬ。自分の思うことを貫きなさい」と言葉を添えられた。
浄瑠璃など江戸の粋や伝統音楽を世界に伝える家元は、襲名から16年の今も緊張するという。その上で「『うまくやりたい』『こうしたい』でなく『うまくやる』『こうする』と覚悟を決める。その心構えが大事」と説かれた。心に響いた。「今場所は気持ちで負けていない」と八角理事長(元横綱北勝海)も認めた。
稀勢の里が綱とりの今場所。三番稽古で鍛えられた弟弟子は、自分のために相撲を取る。その覚悟が兄弟子のためになると信じる。「一番一番を勝ちにいかないと道は開けない」。高安が貫く道が、明るい光を部屋にともす。【今村健人】
◆3代目鶴賀若狭掾(つるが・わかさのじょう) 1938年(昭13)7月11日、東京都生まれ。99年に新内節の11代目鶴賀流家元を継承。翌00年に3代目鶴賀若狭掾を襲名。01年に重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された。新内節とは浄瑠璃の一派で「江戸浄瑠璃」とも呼ばれる。1760年ごろに生まれ、三味線を弾きながら花街などへの「流し」として発展。江戸の庶民的な音楽として知られ、三味線を伴奏に物語を叙情的に語る、歌う要素が強い浄瑠璃。