稀勢の里の生き様、化粧まわしが「北斗の拳」の理由

「北斗の拳」の化粧まわしを贈られることがわかった稀勢の里(2017年3月26日撮影)

 大相撲の横綱稀勢の里(30=田子ノ浦)に、人気漫画「北斗の拳」の3兄弟を描いた三つぞろいの化粧まわしが贈られることが24日、分かった。アニメで放送された漫画のキャラクターが横綱の化粧まわしに用いられるのは史上初めて。稀勢の里は、孤高の男の長兄ラオウで、太刀持ちに主人公ケンシロウ、露払いには次兄トキが描かれた。5月6日に都内で開かれる横綱昇進祝賀会で披露される。

 他を圧する鋭い眼光。覇者としてのオーラが宿り、かざした右手には何者をもひれ伏す力がある。そんな姿は、この横綱にこそふさわしい。稀勢の里に、暴力が支配する世紀末を舞台にした人気漫画「北斗の拳」の三つぞろいの化粧まわしが贈られることになった。中でも横綱が締めるのは主人公ケンシロウではない。「世に覇者はひとり」と孤高の姿を貫いた長兄ラオウを、自ら好んで選んだ。

 きっかけは2年ほど前だった。大関昇進時に有志でできた「後援会」。週刊少年ジャンプの編集長として最大発行部数653万部を達成し、現在は漫画の編集などを手がけるコアミックス(本社・東京)の堀江信彦社長(61)も会員だった。綱とりに苦しんでいた当時、堀江社長は「横綱になったら化粧まわしを贈る」と約束した。すると稀勢の里の目が輝いた。「北斗の拳がいいです。ラオウでお願いします」。

 「オレに後退はない。あるのは前進勝利のみ」-。そんなラオウの生きざまは、世代でなくとも横綱の心にあった。「ケンシロウじゃないのかと聞いたら『ラオウで』と。横綱は先代師匠の『勝負師は孤独であれ』『言い訳するな』という言葉を守る。そういう姿がラオウに重なったのかな」。北斗の拳の元のアイデアは、堀江社長が考えたもの。原作の武論尊氏、漫画の原哲夫氏も快諾し、後援会員の賛同もあって同社の役員会で議決した。ただ、それから2年もたった。

 「もう忘れたかも…と思っていたら、横綱から連絡があった。義理堅く覚えていた。そこに感動しちゃったなぁ」。何十枚も並ぶ絵柄から、楽しそうに3枚を厳選したのは横綱自ら。太刀持ちにケンシロウ、露払いに次兄トキを据えた。化粧まわしにはそれぞれ2つの北斗七星と大きな北極星が1つ描かれ、計15個の星=15勝も祈願されている。

 鉄腕アトムやバカボン、キン肉マンなど、漫画キャラが化粧まわしに描かれたことはあるが、横綱では例がない。「漫画の名誉です。横綱は少年の塊のような人。ケガしても行く勇気は、若くないとできない。昔、漫画雑誌の表紙は野球選手か相撲取りだった。稀勢の里関は、あのころに戻せる横綱」。わが生涯に一片の悔いなし-。そう言い切ったラオウの魂を、稀勢の里も受け継ぐ。