稀勢の里が黒星発進、ケガ回復も「心の壁」不安的中

御嶽海(右)に寄り切られ初日黒星の稀勢の里(撮影・岡本肇)

<大相撲名古屋場所>◇初日◇9日◇愛知県体育館

 休場明けの横綱稀勢の里(31=田子ノ浦)が、いきなり黒星を喫した。新関脇御嶽海に立ち合いでもろ差しを許して寄り切られた。夏場所に続く初日黒星で、2場所連続で黒星発進となった横綱は08年夏、名古屋の朝青龍以来9年ぶりとなった。稀勢の里のほか、横綱日馬富士、大関照ノ富士、豪栄道、高安が黒星を喫した。00年九州場所14日目以来17年ぶりに2横綱、3大関が敗れる波乱で、荒れる名古屋が幕を開けた。

 休場明けの初日。左上腕付近の回復具合が測られる大事な一番で、稀勢の里はなすすべなく敗れた。引き揚げる花道では首をかしげた。支度部屋では「うーん…まぁ」とだけ言葉を発して、あとは目を閉じた。同じように初日に敗れても口数が少なくなかった先場所とは違った。2場所連続の黒星発進に無言のまま、愛知県体育館を後にした。

 5戦全勝だった御嶽海との一番。差そうとした左は厳しく封じられ、代わって生命線となる右もまわしに届かなかった。もろ差しを許して後退。俵で4秒間粘ったが、防戦一方の腰高の状態では防ぎようもなかった。今場所、上位に台頭してきた若手に「負けないように、気合を入れてやりたいと思います」と話していたが、止められなかった。

 春場所13日目に負い、夏場所を途中休場に追いやられた左上腕付近のけが。6月から精力的に稽古を積み重ね、テーピングをする必要もない状態にまで回復した。ただ、連日の稽古は最初の一番でほぼ勝てなかった。けがの再発、痛みのぶり返しを怖がり慎重に入る気持ちがどこかにあった。

 「全然、普通にできる。ただ、最初からギアが入らない。(左上腕に)もう違和感はないけど、最初の4、5番くらいはどうしても、なかなか力が入らない。そこが良くなってくれば完璧じゃないかな」。そう漏らしていた場所前。この日の朝も「いい調整ができた」とは言ったが、唯一の心配の種だった、その「心の壁」が、やはり本場所最初の相撲で出てしまった。

 初日黒星は幕内76場所で27度目。過去26場所では最高でも11勝止まりと大きな1敗で、八角理事長(元横綱北勝海)は「今日の相撲を見る限りはね」と、苦しい場所になりそうな予想を示した。ただ、先場所より腕の状態が良いのも確か。心の壁を振り払えるか。試練の場所は、名古屋も続く。【今村健人】

 ◆出場した横綱、大関が5人以上敗れた日 昭和以降、この日が13度目。最多は06年秋場所6日目の6人全滅。1人横綱の朝青龍に白鵬、千代大海、魁皇、琴欧州(のち琴欧洲)、栃東の5大関が敗れた。この日と同様、2横綱と3大関が敗れたのは00年九州場所14日目以来となる。また4横綱&3大関の豪華番付時の大荒れでは、61年九州場所6日目、8日目に2横綱と3大関が敗れたことがある。