貴乃花親方の訴え届かず、落選覚悟でも出馬した理由

日本相撲協会の理事候補選結果

 貴乃花親方(45=元横綱)が壮絶に落選した。日本相撲協会は2日、東京・両国国技館で役員候補選挙の投開票を実施。定員10人に対し、11人が立候補した理事候補選挙で貴乃花親方は最下位にとどまった。全101人の親方衆が投票したが、獲得したのは2票。初めて貴乃花一門から2人を擁立し、もう1人の阿武松親方(元関脇益荒雄)は当選したが、ダブル当選はならなかった。定員3人に対し、4人が立候補した副理事候補も、貴乃花一門に近い無所属の錣山親方(元関脇寺尾)が落選した。

 大差の落選だった。貴乃花親方に投じられたのは、わずか2票。トップで当選した高島親方(元関脇高望山)の12票とは、10票もの開きがあった。開票後間もなく、貴乃花親方は会場を出たが、いつもと変わらなかった。心情や選挙結果について問われても、無言でゆっくりと歩き、迎えの車を待った。表情を変えず、無言で国技館を去った。

 票の上積みはなかった。もともと貴乃花一門は8人。12月に時津風一門を離脱し、協力関係となった無所属の錣山親方ら3人を加えても、基礎票は11票しかない。その中で一門から阿武松親方と2人で立候補した。当選には1人9票前後必要とされ、2人で約18票には遠かった。

 さらに前回選挙でも協力関係にあり、今回は苦戦していた山響親方(元前頭巌雄)の当選も目指していた。持ち票11のうち2票は山響親方に回したとみられ、8票は阿武松親方に集め、自身は1票のみという玉砕覚悟の出馬だった。他の一門の隠れ支持者の票を当選ラインまで集めたかったが、実際には1票加わっただけ。その1票は、貴乃花親方の長男の妻の父にあたる陣幕親方(元前頭富士乃真)が投票したと見込まれる。

 初場所中から前日1日まで、4度にわたって一門会を重ねた。その中や、貴乃花親方が親しい相撲界以外の関係者からも「1度休んでみては」と、1期2年は理事を外れることを提案された。秋巡業中に起きた元横綱日馬富士関による暴行事件で、巡業部長でありながら協会への報告を怠ったなどの理由で1月4日に理事を解任された。電話に出ない、聴取に応じないなどの協会への非協力的態度は、一門の親方衆の間にも“理事に返り咲いて見返す”という空気を生まなかった。

 それでも一門会では「(親方衆に)投票してもらうことが活力になる」と力説した。自身が立候補しなければ無投票で理事が決定。将来を考えるきっかけを失うことこそ、角界の衰退につながると訴え続けた。

 今回、仮に出馬していなければ、理事会にも参加できる役員待遇委員を維持できる見込みだった。だが落選したことで、1階級下の委員に降格するのが慣例。それでも落選覚悟で出馬したのは、前日1日にウェブサイトでコメントした「自由に意見を交わせる風土を作り上げることを私の目標といたしたい」という理想を掲げるからこそ。現時点で、一門外の親方衆には説得力を持って受け止められなかった。【高田文太】