4連敗稀勢の里、初めての一人横綱に重圧…選択迫る

栃煌山(手前)にすくい投げで敗れる稀勢の里(撮影・栗木一考)

<大相撲九州場所>◇4日目◇14日◇福岡国際センター

稀勢の里(32=田子ノ浦)が、横綱としては実に87年ぶり2人目となる、初日から4連敗を喫した。東前頭2枚目の栃煌山を攻めて1度は軍配が上がったが、物言いの末、軍配差し違え。相手が死に体とも受け取れる微妙な判定だったが、運が味方することはなかった。横綱の初日からの4連敗は、31年1月場所の宮城山以来で、1場所15日制が定着した49年夏場所以降では初。5日目は先場所敗れた玉鷲との対戦が組まれた。

立ち合いで頭からぶつかった稀勢の里が、一気に攻め込んだ。左を差して前に出る、今場所随一の内容だったが、土俵際での栃煌山のすくい投げに、左肩から落ちて土俵上で裏返った。対する栃煌山は土俵下まで転がった。行司軍配が稀勢の里に上がると物言いがついた。稀勢の里の肩が先についたが、栃煌山の両足が宙に浮く、いわゆる死に体となった方が早いと判定もできる微妙な一番。場内から初白星を期待する拍手が起きる中、協議の結果、行司軍配差し違え。また負けた。

支度部屋では報道陣の質問に3日連続で無言を貫いた。報道陣を遠ざけて着替える前には、赤いタオルをたたきつけるように投げつけ「チッ」と舌打ち。何よりも取組直後に、髪を洗って風呂から上がってきた。相撲界では翌日に向けた験直しとされる行動で、闘志がまだ消えていないことを、ほのめかしていた。

かつて稀勢の里が付け人を務めた兄弟子の西岩親方(元関脇若の里)は、取組前ながら「ひとつ勝てば元通りの稀勢の里になってくれると思う。状態は悪くない。諦めるのは早い」と、本人の思いを代弁するように話した。場所前に優勝宣言したように、状態は悪くないと自覚して臨んだ場所。白鵬、鶴竜の2横綱が休場し、初めて経験する一人横綱の重圧が日を追うごとにのしかかる。

横綱が休場による不戦敗を除き、初日から4連敗するのは宮城山以来、87年ぶり2人目の不名誉な記録となった。1場所15日制では初。3連敗から4日目の土俵に立った横綱も、88年秋場所の大乃国以来、30年ぶりで平成では初めてだ。元大乃国の芝田山親方は「下を向いても白星はやってこない。人が認める、認めないじゃなくて、自分がやりきれるかどうか。8番でいいじゃない」と、初日から3連敗の後、8勝7敗で勝ち越した当時を振り返り、立て直しを期待した。

師匠の田子ノ浦親方(元前頭隆の鶴)は、取組後に参加した二所ノ関一門会で親方衆から「横綱、頑張ってくれよ」と励まされたと明かした。宿舎に午後8時20分ごろに戻り、その約10分後には稀勢の里も到着。だが同親方は報道陣に「お話しすることはないので対応しません」と、5日目の出場については明かさなかった。4日目の出場は、本人は前夜には意志を固めていた。

87年前の宮城山は、5日目に初白星を挙げた。稀勢の里は3日連続の金星配給でもある4連敗後も出場すれば、史上初の5連敗という不名誉な記録を残す可能性もある。運も味方しない中、一人横綱の責任をどう果たしていくかの選択が迫られている。【高田文太】