尊富士、千秋楽前夜の照ノ富士からの魔法の言葉明かす「言われた瞬間に少し歩けるようになった」

優勝一夜明け会見に臨む尊富士(撮影・小沢裕)

大相撲春場所で110年ぶりの新入幕優勝を果たした、東前頭17枚目尊富士(24=伊勢ケ浜)が、千秋楽から一夜明けた25日、大阪市内で会見した。青森県出身としては元大関貴ノ浪以来、27年ぶりの優勝。会見では津軽弁で「さっぱどしたじゃ(すっきりした)」と喜びを表現するなど、終始笑顔を見せた。

前頭朝乃山に敗れて右足をけがした14日目からの心境や「正直、相撲は好きじゃない」などと、せきららに語った。それでも随所に「まさかここまでできるとは。夢のまた夢。15日間やってよかった。本当にそれだけ」と、実感を込めて喜びを語った。

部屋の兄弟子の横綱照ノ富士への感謝の言葉を並べた。14日目の夜、救急車で運ばれた大阪市内の病院から、部屋に戻ると、1度は師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)に出場を止められた。「無理だろう」「どうするんだ、力も入らないし」と言われ、断念しかけた。その後、自室に照ノ富士が「どうだ?」と、たずねてきた。尊富士は「この状況はきついです。歩けないですし」と答えた。そして言われた言葉に胸を打たれた。

照ノ富士 「お前ならやれる。記録はいいから、お前は記憶に残せ。勝ち負けじゃない。最後まで出ることが大事。負けてもいいから。しょうがない。でも、このチャンスは戻ってこない。オレもそういう経験があるから」。

この言葉を聞き「言われた瞬間に、少し自分であるけるようになった怖いぐらいに。さっきまで歩けなかったのに。『立て』と言われたら(歩けるようになった)。そこで『明日(千秋楽)、頑張ります』と言いました」という経験をした。再度、伊勢ケ浜親方のもとをたずね「出させてください」と伝えた。「横綱に言われて急にスイッチが入った。第2の自分がいるような感じだった」と、不思議な力がわいてきたという。そこから千秋楽の豪ノ山戦の快勝、そして記録にも記憶にも残る110年ぶりの新入幕優勝へとつながっていった。

千秋楽パーティーからの延長戦は、この日の午前5時まで続いたという。午前10時に始まった会見までは、数時間しか睡眠を取っていなかったが「場所中よりも、よく寝られた」と話し、場所中の緊張感の一端をのぞかせた。

けがした右足は、靱帯(じんたい)損傷だが、この日は引きずりながらも、部屋宿舎からの数分の会見場まで、自力で歩いて訪れ、帰っていった。そんな中でも帰り際に「これからトレーニングします」と話し、報道陣を驚かせていた。31日から始まる春巡業への参加は未定としている。