「琴桜」50年2カ月ぶり勝ち名乗り、偉大なしこ名にとらわれず自分らしさで初白星

懸賞金を手にする琴桜(撮影・小沢裕)

<大相撲夏場所>◇2日目◇13日◇東京・両国国技館

「琴桜」のしこ名が、50年2カ月ぶりに勝ち名乗りを受けた。琴ノ若改め大関琴桜(26=佐渡ケ嶽)が、東前頭筆頭の熱海富士を肩透かしで破り、今場所初白星。1勝1敗とした。今場所から、亡くなった祖父で元横綱のしこ名を襲名。祖父が最後に白星を挙げた、74年春場所14日目以来の「琴桜」の白星をつかんだ。

半世紀の時を超えて「琴桜」の勝ち名乗りが館内に響き渡った。琴桜は立ち合いで、熱海富士を組み止めた。すぐに右をのぞかせると、体を開いて肩透かし。初日黒星で迎えた難敵との一番を冷静に制し「集中していけた。落ち着いていたのでは」と胸を張った。初代琴桜が最後に勝ったのは74年春場所の大阪府立体育会館。初代が最初と最後に土俵に立ったのは、蔵前国技館だった。相撲の町として定着する両国で「琴桜」の勝ち名乗りが響くのは、実は初めてのことだった。

連日、土俵入りから大歓声で迎えられている。自身のファンはもちろん、祖父の現役時代を知るオールドファンからも大きな拍手。だからこそ、しこ名の重みも感じていた。この日の朝稽古後、しこ名に関する質問に、思わず「もう、しこ名の話はやめましょう」と漏らした。どんな質問にも答えてきた琴桜としては珍しい対応。自分で決めた改名だが、周囲の期待の大きさは予想以上と知った。

幼少期に「大パパ」と呼んでいた祖父と約束した。「僕はいつになったら、大パパのしこ名をもらえるの?」とたずねると、生前の祖父に「大関になったらいいぞ」と、ほほ笑みながら返された。満を持しての襲名。だが初日は「体が少し硬かった」と、この日の朝稽古は、珍しく土俵に入らず土俵周りでの基礎運動にとどめた。ハンドマッサージ器を使って硬い部分をほぐした。何よりも気持ちが硬かったと気付かされた。

しこ名に関する質問をさえぎった後には「そういうところにとらわれて、自分らしくいけないと意味がない」と、きっぱりと話していた。同じしこ名でも「その人によって考えも違うから」と続けた。「猛牛」と呼ばれた激しい突き、押しの祖父とは取り口も違う。人は人、自分は自分-。しこ名に踊らされていた自分から離れたことで「体が動いた」と、驚くほど自然体で白星をつかんだ。上位に休場が相次ぎ、場所の主役への期待も高まるが「人がどうとかは関係ない。いつも通りやるだけ」。偉大なしこ名を継いだ最初の壁を乗り越えた。【高田文太】

◆横綱琴桜(ことざくら)第53代で、先代の佐渡ケ嶽親方。本名は鎌谷紀雄。強烈なぶちかましが武器で「猛牛」の異名を取った。73年初場所後に、年6場所制が定着した58年以降、最年長の32歳1カ月で横綱昇進。横綱を8場所務めた。幕内通算553勝345敗77休。優勝5回。74年名古屋場所で引退。得意は押し、右四つ。07年8月14日に敗血症による多臓器不全のため66歳でなくなった。

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