<大相撲秋場所>◇初日◇14日◇東京・両国国技館
ロンドンの人気者誕生を予感させる、堂々のデビューだった。横綱大の里の付け人で、東三段目40枚目の羅漢児(らかんじ、21=二所ノ関)が、結びの一番後、本場所で初めて弓取り式を務め、初日を締めくくった。8月の夏巡業から弓を振り始めたばかりだが、堂々の弓さばきで、高速で弓を回す見せ場では大きな拍手も起きた。本場所で初めて大銀杏(おおいちょう)を結い、大役を務めた羅漢児は「昨日の夜から、めっちゃ緊張してました」と、初々しく照れ笑いを浮かべた。自己採点は「70点。経験を重ねて、足りない30点分を埋めていきたい」と、さらなる成長への意欲を語った。
今場所は千秋楽まで弓取り式を務める予定で、場所後に行われるロンドン公演での大役も内定している。相撲を取る力士は大勢いるが、弓取り式を務める力士は1人だけ。現地の多くの市民にとっては、初めて生で見る光景とあって、この日起きた大きな拍手以上に、大盛り上がりとなる可能性は高い。「まだ本場所も今日が初めてなので、想像もつかないですね」と、再び照れ笑いを浮かべた。
サインを求められる機会も増えると想定されるが、大相撲では幕下以下の番付の力士がサインすることは禁じられている。そんな説明もしながら、英語でサインの求めに断りを入れるケースも増える可能性を指摘されると「そうか…」と、新たな課題に気付き、少し困った顔になっていた。
ただ、この日の羅漢児は、そんな少し先の心配事を上回る感動、興奮に包まれていた。「土俵下の控えて初めて気付いたんですけど(結びの一番に臨んだ大の里と小結安青錦の)2人とも大きくと、本当に近くに感じました。すごい迫力で、こっちの方に来た時はドキドキしました」と“特等席”で、最高峰の相撲を見た経験に刺激を受けていた。
これまで大の里の付け人では、幕下花の海が弓取り式を務めてきたが、新十両昇進が現実味を増し、相撲に集中させる意味でも“卒業”となった。そこで巡ってきた大役に、海外デビューの“おまけ”もついてきた格好だ。
弓は日本相撲協会で厳重に保管され、部屋に持ち帰って弓取りの稽古をすることは不可能となっている。多くの弓取り経験者が、代用品を使った稽古はしなかった。重さや形、さらに「巡業用と本場所用でも滑りやすさが違う。巡業用の方が古くて持つところが補強されている分、滑らない」(羅漢児)と、持った時の感覚まで、精巧に類似した稽古用の棒などを、部屋で準備することは極めて難しい。間違った感覚が身に着いてしまうことを懸念し、代用品で弓取り式の稽古をしない先人たちの考えを、羅漢児も踏襲していくつもり。部屋ではもっぱらイメージトレーニングの日々だ。
羅漢児は「まずは千秋楽まで、無事に務めたい。一生懸命頑張ります」と、抱負を述べた。距離的にも日程的にも遠い、ロンドン公演よりも、まずは秋場所。1日1日、集中して臨む姿勢は、相撲にも通じる心構え。今場所中に飛躍的に成長した先に、国境を越えた称賛が待っている。【高田文太】