「誕生 大関安青錦」<1>
21歳の新鋭、関脇安青錦(安治川)が大関昇進を確実にした。連載「誕生 大関安青錦」では、その横顔を紹介する。第1回は、ウクライナと安青錦。ロシアからの軍事侵攻を受け、母国は難しい状況にある。故郷への思いとは-。
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安青錦は22年4月の来日以来、ウクライナに1度も戻っていない。戻れない。両親はドイツ・デュッセルドルフに避難している。
ロシアからの軍事侵攻を受け、母国を思う気持ちは当然ある。しかし、日本相撲協会からは戦争についてのコメントをしないように通達されている。安青錦への外国メディアからの取材依頼も多いが、協会が断ることもある。政治的発言は混乱を招きかねないためだ。
安青錦は10月9日、外国特派員協会の記者会見に招かれた。ウクライナ情勢を聞かれることは間違いない。どう答えるべきか。事前におかみさんに相談し、問答を考えた。会見本番、「僕は力士なので相撲の話をしましょう」と呼びかけた。安治川親方は「力士としての自分を見てもらえればいいと思っている。相撲を取って、ウクライナの人たちが元気になってもらえればいい」と代弁する。
安青錦の故郷はウクライナのヴィンニツャ。キーウから車で約2時間半。今年の夏巡業中、地元についてこう教えてくれた。「ウクライナの中では、普通の町です。住みやすいランキングで最近は1位になっていました。そこまで大きくないし、キーウも近いし。結構きれい。川もあるんです。甘いお菓子が有名です。チョコとか」。
外国特派員協会では「友達にも会いたいし、小さい時に行っていたご飯屋さんにもいきたい。自分が育った町で散歩がしたい」とも言った。優勝を決めた後「皆さんが、喜んでくれると思う」と思いを口にした。戻れる状況になるのは、もう少し先かもしれない。だが、安青錦優勝の朗報は、確実に母国へ届いている。【佐々木一郎】