野球少年たちに伝えたい松井秀喜さんの言葉

<子どもの頃から味わっていたワールドシリーズ>

今週末も野球の試合に臨むという小中学生も多いことでしょう。そんな選手たちに、松井秀喜さんの言葉を伝えたいと思います。もう19年も昔の言葉です。

あれは2003年。松井さんがニューヨーク・ヤンキースに移籍した1年目でした。ヤンキースは厳しいシーズン、ポストシーズンゲームを勝ち抜き、ワールドシリーズに進出しました。

巨人を、日本を飛び出してメジャーに飛び込んできた松井さんにとっては、夢に描いた最高峰の舞台です。その開幕を迎える前日。ヤンキースタジアムで最終調整を終え、一塁側ベンチで50人を超える日本メディアが集まってインタビューをしました。私もその場にいました。

――いよいよワールドシリーズ、松井選手にとって初めての舞台です。今のような心境を、これまでに味わったことはあるでしょうか?

代表者が最初にそう問いました。もちろん「こんな気持ちは初めてです」という返事を期待しての質問だったと思います。しかし、松井さんは冷静にこう答えました。

「こういう気持ちはね、今までに何度も味わってきている。それこそ子どもの頃から、何試合も何試合も、そういう試合をやってきているからね。そういう意味では特別大きな違いはない。もちろん場所は違うわけだけど、自分の気持ちに大きな違いはない」

当時、松井さんは29歳。大リーグでは新人でしたが、プロ生活は11年目の実績ある選手です。その彼が、ワールドシリーズを迎える前日に「こういう気持ちは子どもの頃から味わっている」と言うのです。

私はメモを取る手が止まり、松井さんの顔を見つめた覚えがあります。

後日、松井さんに問いました。あのとき「子どもの頃から」と口にした意味は何だったのかと。松井さんは笑顔を浮かべながら答えました。

「年とともに舞台は変わっても、野球に臨む気持ちは変わらない部分があるんですよ。不安もあれば、期待もある。ドキドキするけど、ワクワクするような… もちろん野球のレベルが違うから準備や考えることは違うけど、そこは変わらないよね」

想像してみました。

根上少年野球クラブで初めて試合に出る前夜。

根上中学で中部日本大会に臨む前夜。

星稜高校で甲子園出場をかけて戦う前夜、初めての甲子園での試合に臨む前夜、優勝を誓って甲子園入りした3年生の夏。

巨人でプロとしてデビューする前夜、1994年(平6)にシーズン最終戦で中日と優勝を争った「10・8」の前夜、オールスターゲーム、日本シリーズ…

そして大リーグのヤンキースに入り、カナダ・トロントで迎えたデビュー戦の前夜。ヤンキースタジアムで初めての試合は、4月の降雪で1日順延になったので、時間が長く感じたことでしょう。

そのほか、松井さん自身にしか分からない心情、ドラマが数多くあるはずです。そうやって1歩1歩、進んできたことによって、ワールドシリーズがあったわけです。

試合を前にした不安と期待。その思いは小学校の校庭でプレーした少年時代でも、ヤンキースタジアムで戦うワールドシリーズでも変わらない。松井さんは、そう言いたかったのです。

地域の小さな大会、練習試合やチーム内の紅白戦であっても…その舞台の大きさは関係なく、それぞれのワールドシリーズなのだと思います。小中学生の皆さん、そう思って毎日を大切に過ごしてください。【飯島智則】