<コラム「輝け!少年野球の星」>
初めて野球の取材をしたのは入社3年目、1992年(平4)の6月だった。内勤の記者だったが、その夏限定で高校野球の千葉大会を取材するよう命じられた。まず最初に優勝候補筆頭の練習を訪ねた。千葉・柏市の二松学舎沼南のグラウンドだった。
秋春の県大会優勝校だったが、七五三(しめ)和男監督によると夏は1年生の片桐圭内野手を主軸打者に抜てきする可能性があるという。細身ながら、PL学園の1年生4番だった清原和博選手を思わせる長身だったので「二松沼南に清原2世」と書いた署名原稿が掲載された。片桐選手は大活躍とまではいかなかったが、二松学舎沼南は決勝に進出。惜しくも拓大紅陵に敗れ、甲子園を逃した。
それから24年後、2人の息子が足立区の学童野球チームに入った。シーズン終わりの食事会で、みんなが「ケイさん」と呼ぶ体格のいいコーチと同席した。3本目の缶ビールが空くころに、ケイさんの出身校を聞いて驚いた。「二松学舎沼南…あなた、片桐圭か?」。初対面から3倍ぐらい太めになった清原2世がそこにいた。一時はドラフト候補になった片桐さんは、進学先の亜大で培った技術を、息子たちに指導してくれた。当時の記事を保管していたお父上が、私の名前を覚えていたという。
それから3年後、息子たちの自主トレ用に、ネットもティースタンドも同じ会社の製品を使った。自宅のある足立区の会社で、手ごろな料金な上、ありそうでなかった工夫が凝らされているのがいい。特に薄い板状のシリコンの的をバットでたたく「スウイングパートナー」は理にかなっていた。ミートポイントを確認しながら素振りができる練習器具を、当時担当した少年野球コーナ―で紹介しようと、フィールドフォース社を訪ねた。
開発担当の吉村尚記専務から製作秘話を聞いた。同社は、元高校球児で学童野球の指導者でもある吉村氏らが、2006年(平18)に足立区で創業した。空き地や広場がなくなり、各地の公園も野球禁止となり、練習場所を失っている野球少年のために「少人数小スペースで練習できるように」とアイデア満載の練習器具を手がけるようになった。「少年野球応援隊」を旗印に、各地で大会を主催、協賛して、自社の道具を賞品として提供している。
16年、公園や広場の代わりになる、室内練習施設「ボールパーク」を足立区にオープン。地元だけでなく、週末は首都圏各地から利用者が集まるようになった。「野球少年たちを応援することで、野球の競技人口減少に歯止めをかけ、その裾野を広げる一助になりたい」と力を込める吉村氏の思いに共感すると、ルーツが知りたくなる。ところで出身高校は? 「二松学舎沼南です」。えっ、ということは片桐圭を知っていますか? 「はい、彼の1年上の捕手でした」。92年、吉村捕手は2年生でベンチ入りする実力者だった。あの夏、同じグラウンドにいた球児と、またもや少年野球を縁に再会した。
その後、社長に就任した吉村氏は、今年12月12日に千葉・柏市に室内練習場やアンテナショップを併設した「ボールパーク柏の葉」をオープンする。東京、札幌、旭川、福岡に続く5カ所目の施設だ。同時に本社機能も、甲子園を目指し、汗を流した柏市に移転する。そして、究極の目標として「47都道府県にボールパーク構想」を掲げた。これまでの施設は大型倉庫などを改装してきたが、柏の葉はその経験を元に一から設計、建設した。この専用施設をモデルに、公園を追われた全国の少年たちに「ボールパーク」を届けようという。
用具に関しても「野球界を支えてくれているのは、まさに学童、少年野球です。みなさんからいただいた利益をしっかりと還元し、多くの子供達にボールをキャッチする、楽しさを体感してほしい」と、小学2年生以下の初心者用「グリーングラブ」を2年前に開発した。従来の子ども用グラブに使った合成皮革は、硬さがほぐれにくく、握力が弱い子供が捕球できるようになるまでに、野球が嫌いになるケースが多かった。
そこで、新品でもやわらかい革を選び、つかみやすく組み立て、捕球の手応えも味わえるグラブを仕上げた。昨年の夏と年末に1000個ずつプレゼントするキャンペーンを実施した。今年も12月12日までに同社の公式LINEアカウントから希望者を募集。1000個をプレゼントする。
全国展開やキャンペーンなど大型企画の一方で、各地の大会にスタッフを派遣してショップを出しながら、グラブメンテナンスや野球指導など、草の根的な触れ合いも大事にする。先日、私の次男の所属する中学硬式野球チームが主催する大会の出店に、グラブ責任者が訪れた。1年前に彼が作ってくれた息子の内野手用グラブを点検して「大事に手入れしてくれてうれしいです。あと5年は使えますね」とひもの一部を締め直してくれた。いとおしそうにグラブを修理する姿から、野球愛があふれた。吉村社長のまごころは、職人さんにも行き届く。彼らの作ったボールパークに行ってみよう。30年前の夏のように、柏に足を運ぼう。【久我悟】