はずんだボールになれば、ヒットが打てる…田尾安志さんから学んだ「トップ」のイメージ

2005年、楽天の久米島キャンプで酒井選手を指導する田尾監督。はずんだボールが最高点で止まって見える瞬間をイメージした、トップの形だった

<コラム「輝け!少年野球の星」>

「力を抜く」。前回は投球中にボールを落としてしまったオリックス宮城投手や前西武松坂投手を例に挙げた。今回は打撃について。シュアでいて力強さのある打撃が魅力だった田尾安志さん。中日、西武、阪神で活躍した左打者だ。田尾氏が楽天初代監督に就任した2005年を私は担当記者として取材した。キャンプ、オープン戦、公式戦と毎日のように田尾さんと話した。チームのことが多かったが、打撃理論もよく聞いた。「トップが大事なんですよ」と言った。トップとは打者が投球フォームに合わせてタイミングをとった時に捕手寄りに動かしたグリップが、もっとも投手から遠くなった位置。弓矢なら最もピンと張った状態で、そこからバットを振り出していく。左打者の田尾氏は、左(捕手寄り)に体重移動しながら、左耳にグリップが近づいた位置が、自分のトップだったという。

田尾さん 垂直に落下させたボールが跳ね上がって最高点になった時、一瞬止まったように見えますよね。それが僕のトップのイメージなんですよ。

物理学のことはよく分からなかったが、確かに最高点のボールはふわっと止まって、まったく力感がなく見える。当然、バットを握るグリップにも、無駄な力が入っていない状態だとイメージしやすい。

来る日も来る日も負け続けた楽天だったが、新規参入球団の急ごしらえの戦力では、ある意味当たり前で、現場はのんびりしていた。記者同士が試合前に仙台・広瀬川の河川敷に集まり草野球を楽しんだりした。私は右打者だったが、「最高点のボールの理論」を取り入れ打席に立った。すると、ヒットを量産(2、3本だが…)。トップから自然にバットを振り出すことができた。人生初の絶好調だった。

おもしろくて、ますます田尾さんの野球理論に耳を傾けた。チームは負け続けたが、田尾さんの口調はなめらかだった。球団は初代監督にその年限りで見切りをつけ、野村克也監督を迎えた。07年、山崎武司選手が球団初の本塁打王に輝いた。一時は引退目前だったスラッガー復活は「さすがは野村再生工場」と騒がれた。山崎選手は野村監督に感謝しつつ、「楽天1年目に田尾さんがつきっきりで教えてくれたおかげ」と、復活の真相を明かしていた。

打撃フォームはトップまでは一定の形でコントロールできるが、そこからは相手の投球に合わせて、柔軟な対応が必要になる。トップで力が入っては、ぎこちなくなるばかりだろう。選手によっては「トップが決まると『あっ、ヒットだ』と打つ前に思うことがある」という、重要な部分だ。

野球技術指導の人気ユーチューバー・ミノルマン(元大阪桐蔭野球部主将・広畑実氏)は、「振り出しの脱力を身に着ける練習」として、トップの高さをそのままにして、一瞬、下半身だけ沈めてから、振り出す素振りを薦めている。その動画は、まさに最高点のボールの動きだった。

「力むな」「力を抜け」と言うのは簡単だけど、よりイメージしやすい「ボールが最高点で止まって見えるように」。参考になれば、たおやかな美しいスイングになるはず。田尾やからね…。【久我悟】