須藤凜々花事件を「なかったこと」にしてはいけない

第9回AKB48選抜総選挙開票イベント 20位の須藤凛々花はうれしそうな表情(2017年6月17日)

<連載:須藤凜々花を語り合う(3)>

 6月17日に開催されたAKB48選抜総選挙で、20位に入ったNMB48須藤凜々花(20)が、壇上で突然結婚を発表した騒動から1カ月以上が過ぎた。須藤の発言がもたらした影響は? AKB48グループ取材歴の長い日刊スポーツ新聞記者2人とフリーライター2人が集まり、真面目にとことん語り合った。連載3回目。

 B(スポーツ紙記者) 賛否はともかく、あのように起きてしまった以上、日刊スポーツ紙の1面選択は当然でした。ただ私は、「ここまで刺激的なことが起きないと社会に響かないグループになってしまったのか」とも思ってしまいました。アイドルにとって、最も大事な財産であるファンをないがしろにしているわけですから。

 C(フリーライター) 須藤の結婚宣言は、野球とかサッカーで起きた事件で言うと、どういうものに置き換えられるのでしょう?

 A(スポーツ紙記者) ファンの失意は気の毒で仕方がないけど、世間的には何よりも「驚き」なんですよね。そういう話題は、スポーツ紙の1面を飾り、居酒屋での話のネタになるわけです。「アイドルの恋愛はルール違反だ」とか、「いや、アイドルに恋愛禁止と言っていることは、人権としてどうか」とか。話が尽きなく広がっていく。それが社会性です。

 B 社会的ニュースかどうかとは、「ありえないことが起きる」というのが判断基準の1つです。

 A 一般的には「アイドルに恋愛はご法度」と見られていたわけで、その「ご法度」をこれだけの大きなイベントで豪快に破った。例えがなかなか難しいですが、大相撲で将来の横綱候補と期待されている力士が、十両優勝をしたインタビューで突然、「明日から大相撲を辞めて、プロ野球選手になります」と宣言したら、衝撃でしょうか?

 C 世間が「何それ? どういうこと?」って知りたくなるってことですね。「ふざけるなよ」って言う人と、「おもしろいじゃん」って言う人が出てくるってことですね。

 A 今回の件で、熱心に応援していたアイドルファンが楽しみを失ってしまっているのは気の毒に思います。ただ、恋愛禁止を守ってきた渡辺麻友のような子も、対極の須藤凜々花が出てきたからこそ、その存在がより光ってくるし、その価値が再認識されていきます。決して「マジメが損をする」ではなくて、強い影が、光をより強く光らせることもあるわけです。

 C いわゆる正規軍ですね。

 A やっぱりプロレスの例えですか(笑い)。正規軍は、普段は評価されにくいんです。敵がとんでもないことをすればするほど、正規軍の存在感も増していくわけです。

 D(フリーライター) 最近の取材で(総選挙スピーチで須藤の結婚宣言を否定した)岡田奈々と高橋朱里に言いましたよ。「君たちはキン肉マンとテリーマンという『正義超人』なんだ」って。2人は首をかしげて「よく分からないけどうれしいです!」と言ってました(笑い)。

 B 10年間の純潔のアイドル人生を貫いてきた渡辺は、「名誉風紀委員長」ですよね。

 C AKBという何でもアリの荒波の中でも、愚直に正統派の看板を守り続けたわけですからね。

 A 我々メディアは日常、アウトローで常に新鮮な驚きを提供してくれる悪魔超人のアシュラマンやバッファローマンの行動に注目しがちです。だから、こんなこと言ったら「都合良すぎ」と言われても仕方ないのですが(苦笑い)、須藤の件が起きたからこそ、渡辺は、伝説の正統派アイドルとして、より評価が高まって、卒業していくことになるわけです。

 C 渡辺が卒業発表したときに、若手のメンバーがたくさん泣いたんです。アイドルに憧れてアイドルになった子にとっては、究極の理想は渡辺麻友なんです。それが高橋や岡田だった。

 D ぜひ、渡辺の卒業コンサートでは、渡辺と須藤の2人だけをステージに上げて、ピンスポットのライトを当てて、「よくも総選挙をブチ壊してくれたな!」って、マイクパフォーマンス対決をしてほしいです。渡辺が正義超人として、悪魔超人を成敗して終わる。会場にいるファンはみんな渡辺のファンですから、盛り上がるはずです。

 A 渡辺が11年をかけて築いたアイドル哲学を、哲学者を志す須藤相手にぶつけるというわけですね。

 D ほかの案では、たとえば、メンバー同士で「フリーラップ・バトル」のトーナメントでやればいいと思うんです。決勝が渡辺対須藤になったら最高ですよ。渡辺が、そこで本音をぶつければいいんですよ。そして、こういうしゃべりは須藤の得意ジャンルですから、必ず決勝まで上がってくるでしょう(笑い)。だから、8月いっぱいでの須藤の卒業は、非常に惜しいです。

 A しかも、須藤の一件は、その後、かん口令が敷かれたかのように語られなくなってしまいました。でも、この話題は、絶対に今後も生かすべきなんです。

 D 「これを生かさずして何がAKBだ」と思います。こうなったら、ラップ大会の日までかん口令を敷いておいて、その日に一気に解禁するというのなら、盛り上がりますよ。Cさんが言いたい不満は、すべて渡辺が言ってくれます。

 一同 (笑い)。

 D こういう「事件」を生かさないのは、1番もったいないし、蓋をするなんて、最もイケてないですよ。「じゃあ、何で言ったの?」ってなりますから。

 B 黒歴史にすることは1番いけない。なかったことにしている現状が、1番問題ですね。

(続く)