<ニッカンスポーツ・コム/芸能番記者コラム>
エンターテインメントとはいかなる存在か、深く考える機会があった。
今月7日、AKB48の新公演「夢のポップスター」ゲネプロを取材した。アイドルの原点である歌とダンスをもう一度見直し、歌唱力、パフォーマンスに重点を置いた公演だという。
昨今のAKB48といえば、佐藤綺星(22)、八木愛月(21)、伊藤百花(22)の「星月花(せいげっか)」を中心に人気を集め、20周年の昨年に借りたOGの力とそれにより味わった悔しさをバネにメディア露出や各種ステージ出演を大幅に増やしている。勢いをそのままに迎えた新公演では、山内瑞葵(24)のダンスの動きがひときわ目立って見えた。坂川陽香(19)の笑顔も非常に印象的だった。
そういったメンバーの様子や細かい動きに目を向けつつ終演後の囲み取材で何を聞こうかなと考えるのだが、この日はどうしても心にひっかかり続けたことがあった。グループ総監督であり熊本県出身の倉野尾成美(25)に、おそらく抱えているであろう故郷への特別な思いを聞くべきか否か、だ。
令和8年熊本地震による被害の実情が少しずつ明らかになる中で、およそ穏やかな心中ではないことは容易に想像がつく。記者自身、東日本大震災の際は宮城県在住。デリケートな話題であることは痛いほど分かる。この日の前日には、阪神タイガース大竹投手が涙を流しながら故郷熊本への思いを語っているのをニュースで見ていた。質問したとして、例えば「簡単には言えない」という返答を受け取ったとしても、それは真っ当なコメントだ。
一方で、「今、発することで意味があるコメント」を引き出すのも記者の仕事である。誰かの言葉を誰かに届けることで、活力を生み出せるかもしれない。日頃からそう思っている。
悩みに悩んだ結果、倉野尾に質問を投げかけた。あなたたちを応援している、思っているAKB48という存在がいるという事実を被災地に届ける、それが出来るのは今この場にいる報道陣しかいない、という思いが最終的には勝った。
倉野尾は「曲を聴いてくださる方はそれぞれの人生があって、それぞれの思いや受け取り方があると思います。いろんな方の人生を思いながら歌えるのは幸せですし、それで心を動かせるなら一番うれしいことです」と語った。
また、4日に出演したTBS系「CDTVライブ!ライブ!」ではグループの名曲「365日の紙飛行機」をセンターで披露し、力を届けていたこともあり、「熊本は今すごく大変な状況にありますが、歌番組でも歌い出しを任せていただき、その姿を見て励みになったよ、とコメントをいただきました。自分の歌が誰かの心に届くなら幸せなことです。AKB48の歌詞をしっかりと伝えられるように、この公演を通して頑張っていきたいです」と飾らない思いを語ってくれた。
今でも、倉野尾に熊本への思いを聞いたことが正解かどうかは分からない。話すことで辛い思いをさせてしまったかもしれないという申し訳なさは消えない。ただ、それで記事を書くからには、エンタメ記事のネタの一つとして消費するつもりは全くなかった。誰かに届いてほしい。記事を書き、倉野尾の言葉で力を受け取ることが出来た人が一人でも多くいれば良いなとただただ願うばかりだ。AKB48ファンの方にも届けば、支援の輪がわずかでも広がるかもしれないとも思っている。
あの時取るべき行動への葛藤と、記事を通して言葉を届けたいという思いは、取材を終えてかなり経った今でも全く変わらないままだ。【寺本吏輝】