74年から75年にかけて日本テレビ系で放送された「傷だらけの天使」は、深作欣二、神代辰巳、恩地日出夫、工藤栄一というそうそうたる顔ぶれが演出に当たり、探偵事務所の汚れ仕事をあてがわれた青年たちの怒りと挫折を描いた。

当時高校生の私には、ヌードありの都会の暗部が何とも刺激的だった。主演は萩原健一と水谷豊。水谷が萩原にすがる「アニキぃー」の声が耳に残っている。萩原24歳、水谷22歳。コンビもの作品に置ける兄貴分-弟分のひな型としてしっかりすり込まれた。

勝手な思い込みだが、共演の多い菅田将暉、野村周平の2人にこの関係を重ねてみているところがある。

わずか1学年違いの2人だが、「35歳の高校生」(13年、日本テレビ系)では、菅田が反抗的生徒のリーダーで野村はその取り巻き、「帝一の國」ではライバル関係ながら野村は負け続ける筋書きだった…野村には「従」の設定がつきまとっているのである。

その「弟分」キャラが存分に生かされいるのが「純平、考え直せ」(9月22日公開)だ。舞台となる都会の暗部と、野村のはまり具合が「傷だらけ-」の残像に重なり、いつの間にか40年以上前のドラマのことを思い出したのだと思う。

奥田英朗さんの原作小説はまさに現代を描いている。新宿歌舞伎町のちんぴら純平(野村)は兄貴(毎熊克哉)を慕い、一人前の男になることを夢みている。ある日、対立する組の幹部の命をとれ、と鉄砲玉の大役がまわってくる。

胸の高鳴りを抑えられない純平は、猶予の3日間に出会ったOL加奈(柳ゆり菜)に「ミッション」を漏らしてしまう。退屈な日常に息苦しさを覚えていた加奈にも高鳴りは伝染する。が、体を重ね、純平に好意を抱き始めると、心配が先に立つ。やらなきゃいけないの? 逃げてはいけないの? 相談先はSNSだ。

当初は鼻で笑っていたSNSの住人たちも、加奈の真剣さに真剣な反応を始める。「殺人は重罪だ。10年はくらうよ」「組に利用されているだけだ」「純平、考え直せ」…。決行日に向けて、さまざまな思いが折り重なっていく。「電車男」を思い出す。

行きがかりの出入りで純平の顔には傷が増え、加奈の髪も故あってショートに-刹那の2人の加速度を、「上京ものがたり」(13年)の森岡利行監督は密度濃く描いている。

ヒロイン柳ゆり菜の「残像」は、NHKテレビ小説「マッサン」(14年)のワインポスターの美しい背中だが、今回は生身の好演に女優の気合を実感した。

純心を押し込め、思いっきり背伸びした青年像が、遠くを見る野村の目から伝わってくる。弟分的衣装、スカジャンも良く似合う。

中国人の血が4分の1入ったクオータの野村周平の「周」の字は周恩来に由来するのだろうか。毛沢東の影に隠れながら、国民からもっとも愛された最強のNo.2。俳優・野村の立ち位置を象徴しているような気がする。【相原斎】

「純平、考え直せ」の1場面 (C)2018「純平、考え直せ」フィルムパートナーズ 
「純平、考え直せ」の1場面 (C)2018「純平、考え直せ」フィルムパートナーズ