劇団四季のオリジナルミュージカル「人間になりたがった猫」が今年6月、中国・北京で中国制作の中国語版で上演されることになった。中国の制作会社とライセンス契約を結んだもので、四季としても初のライセンスビジネスとなる。

 主役の猫を演じるのは、かつて四季に在団した李響で、台本と音楽は原則としてオリジナルを踏襲するが、衣装や装置など中国風にアレンジするという。公演は北京、上海などで行い、100回上演を目指すが、中国ではまだミュージカルはなじみが薄い。昨年のミュージカル公演に限った観客動員は101万人と、人口に比べてまだまだ少ないのが実情だ。

 そんな中国と四季との演劇交流の歴史は長い。88年にミュージカル「ハンス」(現「アンデルセン」)を北京で上演したが、それが中国における初めての本格的なミュージカル公演だった。その後、92年に「ミュージカル李香蘭」の北京、長春など4都市での上演を行った。さらに演劇大学「中央戯劇学院」への支援活動を始め、95年にミュージカル専攻科も誕生。翌96年には四季の全面協力で同学院の学生によるミュージカル公演を日本と北京で行ったが、その時の演目が「人間になりたがった猫」だった。

 中国最大の観客動員力を誇る「中国児童芸術劇院」への協力も行い、95年のミュージカル「はだかの王様」上演をバックアップした。99年に中国人俳優による中国語でのディズニーミュージカル「美女と野獣」が3カ月ロングランしたが、それも四季が制作協力した。08年には北京人民芸術劇院で浅利慶太氏演出による「ハムレット」が上演された。

 「ハンス」の中国上演に同行取材したが、当時の観客の服装は人民服が大半で、ミュージカルに初めて触れる人がほとんどだった。今でこそワールドツアーによる英語版上演のほか、中国人俳優による中国版公演も増えている。ちなみに今年上演される英語版は「モーツァルト!」「ゴースト」「ノートルダム・ド・パリ」「ジャージーボーイズ」「ウエストサイド物語」「ウィキッド」「シカゴ」「シスターアクト」などがあり、16年に上演された中国語版は「ライオンキング」「ラマンチャの男」「春のめざめ」「サウンド・オブ・ミュージック」「スリル・ミー」などだった。

 日本では少子高齢化が進み、観劇人口の減少が予測される中、13億人の人口を抱える中国はミュージカルのマーケットとして大きな魅力がある。北京の会見で四季の吉田智誉樹社長は「今回の1歩は規模こそ小さいかもしれませんが、将来に向けての大きな1歩であることは間違いありません」と話した。四季はミュージカル草創期だった韓国で06年、韓国人俳優による韓国語公演「ライオンキング」1年ロングランを行い、今の韓国ミュージカルの隆盛の基礎を築いた。今回の中国語版「人間になりたがった猫」公演は、中国ミュージカルの飛躍のきっかけになるかもしれない。 【林尚之】