いかにも怪しい陰謀論者が、スキのないカリスマCEOを誘拐する。CEOは「侵略に来た宇宙人」と決め付けられ、「地球から手を引け」と応えようのない要求を突きつけられる。

思い込みの強い加害者と鼻持ちならない被害者。どちらも好きになれないが、現実離れしたやりとりの過程で、それぞれの人間味がにじみ出る。「哀れなるものたち」のヨルゴス・ランティモス監督の手の込んだ仕掛けに今回もじわじわと引き込まれる。

CEOにはエマ・ストーン。劇中では実際に長い髪をそり落とされ、5度目のランティモス作品に体を張っている。随所に見せる思わせぶりな表情が、後半の意外すぎる展開に少しずつタネをまく。

陰謀論者にはマット・デイモンを思いっきりクセ強にした感じのジェシー・プレモンス。相棒役がこれに輪を掛けたエイダン・デルビスで落ちこぼれ感はハンパない。髪をそってますます神々しいストーンとのコントラストが効いている。

序盤は誘拐実行のドタバタに笑わされ、終盤の造形美に目を奪われ、そしてシリアスな結末に言葉を失う。次のランティモス作品が待ち遠しい。【相原斎】

(このコラムの更新は毎週日曜日です)