6434人が犠牲になった阪神・淡路大震災は1月17日、発生から25年になりました。多くの人々の人生を一瞬で変えた大震災。負傷者数4万3792人の中には、被災時の負傷などが原因で障害が残った「震災障害者」がいます。声を上げることができず、復興から取り残された被災者に、ひっそりと寄り添ってきた「よろず先生」がいます。鋭い視点で斬り込むMBSテレビのドキュメンタリーシリーズ「映像’20」。今回は「あなたを忘れていない ~被災者と歩んだ25年~」と題したドキュメンタリーを26日深夜1時5分(関西ローカル)から放送します。

震災当時、定時制高校の教諭だった牧秀一さん(69)は、神戸市東灘区の自宅で被災。震災直後、避難所となった近くの小学校で「よろず相談室」を立ち上げました。罹災(りさい)証明の取得方法や仮設住宅の申し込み方法などの生活情報を載せた「よろず新聞」を毎日発行しました。被災者の悩みにも耳を傾けてきました。

大震災から四半世紀。神戸の街が復旧していく一方、被災者の孤独死や自殺が相次ぎました。兵庫県の復興住宅に住む約3万のうち、約1万6000人が65歳以上、高齢化率は53・7%。独り暮らしは8773人。この20年で孤独死した人数は1172人になります。

「年がたつに連れ、孤独が深まる。孤独と言うより、恐怖。生きていることの恐怖やね。訪ねることで、それが少しでも薄れるのであれば…」

牧さんは、独り暮らしの高齢者を訪ね、世間話をしたり、健康や生活の不安について聞いたりしてきました。復興住宅の訪問活動を軸に、震災で障害者となった人たちにも目を向けました。震災から11年目でした。「生きてるけど、しんどい思いをしている人がいる」。震災で障害者になった人や家族が語る会合を始めました。2010年にボランティア団体だった「よろず相談室」をNPO法人「よろず相談室」として設立。牧さんが代表を務め、活動の幅を広げました。

阪神大震災の負傷者数4万3792人のうち、支援を必要とする「障害が残った人」の正確な人数は、いまも分かっていません。牧さんは国に「災害障害者」の実態把握と、人数の公表を求めてきました。現行法制では、負傷しながらも生き残った人への支援が軽視され、公的支援策が整っていないからです。

「災害弱者」に寄り添ってきた牧さんは「訪問活動、手紙支援の意味は何か。『あなたを忘れていない』『あなたは孤立していない』。制度で救えないところがある。人は人でないと救えないところがたくさんある」。「人は人でないと-」。この言葉は現場を歩き、被災者と向き合ってきた「よろず先生」にしか言えない言葉でしょう。

震災から25年の節目、牧さんは今年3月で代表を「引退」することを決めました。昨秋から番組は牧さんの「最後の活動」に密着。東日本大震災や広島豪雨災害で被災し、障害を負った人たちにも支援活動を続ける姿を追います。

震災から25年。被災者の高齢化が進み、震災の風化を懸念する声もあります。 和田浩ディレクター(46)は「風化していく中でも、ずっと忘れられて生きていた方もいる。その中で牧さんも辞めていく。牧さんがやってこられたことは、もう少し社会全体で考えたほうがいい問題。災害弱者が『忘れられた存在』とならないように社会はどうあるべきか。少しでも考えるきっかけになれば」と願いを込めました。

今後、発生が予想される南海トラフ地震では最大で62万3000人、首都直下地震では12万3000人が負傷すると推定されています。「神戸の教訓を生かしてほしい」-。災害弱者を守ることに人生をささげた「よろず先生」。本当の復興とは何か? 番組が「原点」に迫ります。

【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)