190センチの長身に端正な顔立ち、圧倒的な表現力で日本のミュージカル界をけん引する。俳優城田優(33)。9日からは主演の他、初めて演出を務めたミュージカル「ファントム~もうひとつのオペラ座の怪人~」(TBS赤坂ACTシアター)をスタートさせた。「常に良いものを届けたい」と自身と闘い続けるスター俳優の素顔に迫った。

★自負

クールな印象だが、内に秘めた熱量は相当なものだ。言葉の端々に日本のミュージカル界をけん引するエースの自負を強くにじませる。それは「ファントム」への思い入れにも表れる。

「ミュージカルは、まだまだチケットが高かったり、敷居が高いイメージだったりで、劇場で見ていただける方の分母が小さいものなんです。だから、このエンターテインメントの王様の価値や、素晴らしさをもっと見せられるようにアプローチする中で、ミュージカルを芝居として作りたいと思っています。自分の思うミュージカルの魅力と、『ファントム』という作品をいかに魅力的にみせられるか」

「ファントム」は、14年の再演となるが今回、初めて演出を手掛ける。

「難しいですね。他の演者の演技を見てダメ出しして、その後、自分で歌うんですけど、歌っている時は自分を客観的に見られないから、誰が自分をダメ出しするのかって」

演出には城田のこだわりが詰まっているという。

「歌を歌わないところです。きれいに歌うことがミュージカルの魅力じゃないと思っていて。きれいな歌だったらオペラだと思うし。感情が伴い、時には笑い、時には涙、時には感動があるのがミュージカルの魅力だと思っているので、歌は芝居とセットなので、そういう感覚を持っていただけたらなと思います」

★涙…

もともと歌が好きだった。芸能に興味を持ち13歳でこの世界に飛び込んだ。

「13歳の時にいろいろ書き込んだノートが今でも残っています。事務所への行き方とかも書いてあるのですが、そこに、今年の目標っていってマネジャーさんに言われたことが書いてあるんです。雑誌に出るとか、ドラマに1本出るみたいな。でも、簡単じゃないですよ。そもそも、第一線で活躍するだけでもハードルが高くて、想像していたよりも100倍くらい高かった」

長身と端正すぎる顔立ちが足かせになりコンプレックスとなった。

「初めての地上波のドラマが19歳の時だったんですが、その6年間は、オーディションに行っても全く受からない。『君は変わっているから』『特殊だから』と面と向かって言われるんです。エンターテイナーとしての道が容姿で全部つぶれていくんです。もっというと、小さな頃、スペインに住んでいる時には中国人と言われ、石を投げられて、日本に帰ってきてからは外人って指をさされ。幼少期から容姿にコンプレックスを持ち、それで夢を持って芸能界に入ったら、また、そこでコンプレックスを持つわけですよ。『お前はダメだ、どこにも属せない』と突きつけられたような。オーディションから泣きながら帰ったこともあります」

★地獄

しかし、それ以上に歌や芝居を好きだったから続けることができた。一方で、17歳の時に出演したミュージカル「美少女戦士セーラームーン」で自分の居場所を見つけた。

「オーディションに行くとき『セーラームーンか…』って思ったんですけど、前回の公演を見たら不覚にもすてきだと思って泣いてしまって。オーディションに受かってからは歌や芝居、殺陣とかダンスもあってレッスンが地獄の日々でしたけど、やってみたら楽しくて。むしろ、その時の経験がこれまで通して一番楽しかったですね」

その後、ドラマや映画など活躍の場を広げていく。

「『セーラームーン』を2年間やって、その後、『テニスの王子様』では映像作品もやらせてもらって。ドラマに出させていただけるようになったのは、その後ですね。21歳の時に日本テレビ系ドラマ『ハケンの品格』に出て、そこからは早かったですね。すてきな役をたくさんもらって」

ミュージカルでは10年に出演した「エリザベート」で、第65回文化庁芸術祭「演劇部門」新人賞などを受賞し、その評価を不動のものにする。

「今は、大前提に『城田優、すごいらしい』っていうのがあって、賞も頂けば頂くほど肩書になるのですが、どんどんプレッシャーになるんです。だから、今は、これを超える作品を毎回やらなければならないというせめぎ合いです。楽しみより苦しみの方が大きいですね、常に良いものを届けなきゃいけないっていうプレッシャーとの闘いですからね。そのプレッシャーの中にやりがいと生きがいをいかに生み出せるかという感じですね」

今年、芸能生活20年を迎える。

「13歳で、会社までの地図をノートに書いているようなところから始まって。あっという間ですね。泣いたり、死にたくなることもたくさんあったけど、ここまでやってきて。特に、生の舞台をやっているからそうなのですが、40度の熱があっても、食中毒になってもやりますし。自分の体調とか感情とか、いろんなことがあったとしても舞台になれば関係ないので。そこでクオリティーを下げないでやらなきゃいけないのが舞台に立つものの宿命ですね」

ディナーショーやコンサートツアー、写真集発売など今後も精力的な活動が続く。今後、どのようなビジョンを抱いているのだろうか。

「やりたいことは決まっています。ちょっと前までは海外志向もあったのですけど、今は自分で自分のやりたい世界観を追求していきたいなと。これまでやってきたことをより追求して、周りに広めたりプライドや経験値を後世に伝えていきたいと考えています」

日本ミュージカル界のエースは常にストイック。自分自身の道を究める覚悟だ。【上岡豊】

▼ミュージカル「ファントム」でダブルキャストで共演する加藤和樹(35)

何事も楽しむ心を忘れない人。初めて出会ったのは約15年くらい前。いい意味で“まったく変わってない人”。人懐っこくて普段の会話中でもちょっとふざけてみたり、冗談を言ったり…と笑顔を絶やさないイメージですが、芝居のこととなるとその顔は真剣。今回初めて演出家としての彼と向き合って、あらためてエンターテインメントのために生まれてきた人なんだなと感じました。これからも日本のエンタメを引っ張る存在でいて欲しいです。

◆城田優(しろた・ゆう)

1985年(昭60)12月26日、東京都生まれ。父は日本人、母はスペイン人。幼少期は7歳までスペインで過ごす。堀越高卒。03年、ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」で俳優デビュー。08年、TBS系ドラマ「ROOKIES」の新庄役などで話題を集め、09年にNHK大河ドラマ「天地人」で真田幸村役。10年ミュージカル「エリザベート」に史上最年少で死の王トート役を演じ多くの賞を受賞。来年2月にはコンサートツアーも開催する。190センチ、血液型O。

◆ファントム~もうひとつのオペラ座の怪人~

小説「オペラ座の怪人」が原作のミュージカル。怪人ファントムの人間像に焦点をあてた大ヒットミュージカル。城田のダブルキャストとして加藤和樹(35)、ヒロインで愛希れいか(28)木下晴香(20)が出演。

(2019年11月10日本紙掲載)