月組トップ珠城(たまき)りょうが、ウィーン発ミュージカル「I AM FROM AUSTRIA-故郷(ふるさと)は甘き調(しら)べ-」で、日本初演に臨む。両親が手がける老舗ホテルを舞台に「五つ星」獲得を目指す青年役。現地で観劇し、街も歩いた。当地の“におい”も胸によみがえらせ、稽古に励む。宝塚大劇場は10月4日~11月11日、東京宝塚劇場は11月29日~12月28日。

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トップ本拠地6作目。昨年は「エリザベート」も経験し、今度はウィーン発の大作ミュージカルに臨む。現地で観劇も終えた。ウィーンは初めての訪問。サプライズでのあいさつは「歓迎されないかも」と不安だった。ところが「お客様もすごく盛り上がってくださった」。愛する作品が日本で上演されることへの期待の高さを痛感した。

「古き良き伝統を残し、新しい物を取り入れた街。何げない路地、どこで撮っても絵になる。穏やかな空気感も表現できたら」

老舗ホテルを舞台にした人間ドラマ。跡取り息子ジョージが「五つ星」を得ようと奮闘する中、トップ娘役美園さくらふんする有名女優の宿泊ツイートをめぐり、トラブルが起こる。「エリザベート」と同じく、本国では女性が主人公だ。

「ジョージの軽妙さがちょっと“チャラ男”っぽくもあり…。でも、本当は男性特有の、本心をストレートに伝えることが恥ずかしいというか。(平等意識から)ホームレスの人たちに、両親に内緒で、ホテルで残った食事を分配したり」

両親と対立しつつも、前へ進む。稽古に入ると、楽曲から「自然と気持ちが高揚し、その世界にグッと入っていく」力を感じた。ジョージは現代の青年。衣装に頼らず「男」を表現する。「等身大で飾らない。男役度が問われる。やりがいもある」。“骨太さ”が魅力だけに、期待も高まる。

紡ぐナンバーも「今の月組で歌うのは意味がある」と感じる。前作で美弥るりかが退団。花組から鳳月杏が戻ってきた。「組が新たに前に進む。いい雰囲気。(稽古場でも)皆が希望に向かい、楽しそう」。

新人公演を卒業した暁千星(あかつき・ちせい)に加え、風間柚乃(かざま・ゆの)ら若手の成長も著しい。「風間が演じるフェリックスはコメディーを担い、現地でもドッカンドッカン笑いをとっていた」。おりしも東西で、星組トップ紅ゆずる、花組トップ明日海りおが退団公演中だ。

「私が(16年に)初めてトップとして、タカラヅカ・スペシャルに出た時、トップでいらしたのは、明日海さんを最後にいなくなります。紅さんは、ほぼ同時期に就任したこともあって、すごく気にかけ、温かい言葉をくださった」

紅に感謝。そして、月組出身で、珠城が背を追った明日海の退団には別の感慨もある。「自分が明日海さんを支えられるように-。そう思って(若手時代を)過ごしてきた」。花組へ移った当時は「すごくショックでした」と振り返る。

あこがれた先輩は、花組トップとして5年半率いて退く。「宝塚の歴史に名を残すようなトップ。尊敬しています」と感服する。「おふたりの志は後輩につないでいかなきゃいけない。だからと言って、とくに頑張る-とかはない。いつも必死にやっている」。大地に根差した足元が揺れることはない。【村上久美子】

◆日本オーストリア友好150周年記念。「エリザベート」「モーツァルト!」などを生み出したウィーン劇場協会が、17年9月に制作したミュージカル。今年6月までロングラン上演の大ヒットとなった。

物語の舞台はウィーンの老舗ホテル。青年ジョージ(珠城りょう)は、伝統を守る両親と対立する革新的案を掲げ、悲願の「五つ星」獲得を目指す。その最中、人気女優エマ・カーター(美園さくら)がお忍びで来訪。従業員がSNSへ投稿し、ホテルは混乱する。

☆珠城(たまき)りょう 10月4日、愛知県蒲郡市生まれ。08年入団。月組配属。16年9月、近年では天海祐希(7年目)に次ぐスピードの9年目でトップ就任。17年1月「グランドホテル」で本拠地お披露目。昨秋「エリザベート」で宝塚10代目トート。今年は1月に東京、夏に大阪でブロードウェー・ミュージカル「ON THE TOWN」主演。身長172センチ。愛称「りょう」「たまき」。