花組の人気スター瀬戸かずやは、16年目で初の東上主演作に臨む。作品は東野圭吾氏原作で、映画化もされた「ミステリアス・ロマン マスカレード・ホテル」。背中で語る「理想の男役」を求め、スーツの着こなしにこだわり、刑事、ホテルマンにふんして男役の美学を見せる。シアター・ドラマシティ(大阪市)で来年1月5~13日、東京・日本青年館ホールで同20~27日。

原作は、今年1月に木村拓哉主演で映画化もされた東野圭吾氏の人気小説。書店に並ぶ文庫本の表紙には、瀬戸が大きく写る。

「どういうことですかね、あれっ(笑い)。おそろしいことが…。『本屋にあきら(瀬戸)がいた』って写真が送られて。とんでもないことになっているって。プレッシャーと、期待を身にしみたといいますか」

花組は前作で、トップとして5年半率いた明日海りおが退団。柚香光が新トップに就き、瀬戸の立場も重みを増す。16年目にして初の東上主演作は、人気作の初舞台化。刑事が事件解決のためホテルへ潜入捜査。刑事とホテルマンの2役を演じるようなものだ。

「何年か前なら(期待に)負けていた。今は素直に感謝し、頑張ろうと思える。刑事がホテルマンにふんする。男役としても『2度おいしい』ですから」

現代もの衣装の着こなしは、熟練の技が光る。小説、映画も見た。「(木村の)あの表情憎い、その雰囲気出したいなと。鋭い目つきも」。DVDも買い、メーキング映像、出演者らのインタビューを見て、役作りの裏側も学んだ。

「(主人公は)周りが何と言おうと、己を貫き通す強さがあり、あこがれる」。瀬戸は下級生時代、思いを秘めるタイプだった。「今の流れなら、私はここにいた方がいいか-など、迷いながら」。ただ、原点の「背中で語る男役」へのあこがれは不変だった。

瀬戸が「殻を5枚ほど破れた」と感じる作品が、昨年の「蘭陵王」だ。女性の心を持つ男性を演じ「すっごく楽しかった」。演出家からは「ヒロインだと思え」と言われ、気づいた。

「いつも役柄を『男性脳』で考えるんです。感情的に振り切りすぎるとヒステリックで女性っぽくなるかな? とか。だけどあの役は、心は女性。そのストレスがなかった。でもそれは、皆さまの中に『瀬戸かずや』という男役像があったからこそ。私がいくら女子っぽくしたところで、オカマにしか見えない。ありがたくもあり(笑い)」

男役像を突き詰めてきたからこその成功。新生花組では、語る“背中”を後輩に見せる機会も増す。先日、スーツの着方を伝えた。

「衣装合わせからこだわりを持たなきゃダメ。ズボンのすそのダブり具合、シャツの袖の長さ、ジャケットの丈もこだわって」

瀬戸は「風と共に去りぬ」の轟悠を「完璧」と感じる。「心が震えた。その男役の美学に心がビリビリっと震える人になってほしい」と願い、「みんなが挑む姿を見て『よしよし』と思い、お父さんかっ! って気持ちに」と笑った。

主演作で迎える新年は「1日を大切に人と向き合い、信頼、友情を生み、自分も成長し、人間的魅力をあげ、男役につながれば。みんなで(新生花組の)土台を築く1年に」と考える。

色紙にメッセージを求めると、愛称にちなみ「『あきら』めない」と書き込んだ。花組一筋。筋金入りの“花男”が、花組の、宝塚の伝統を、身をもって次代につなぐ。【村上久美子】

◆ミステリアス・ロマン「マスカレード・ホテル」(脚本・演出=谷正純) 東野圭吾氏の「マスカレード」シリーズ第1弾「マスカレード・ホテル」が原作。シリーズ累計の発行部数は360万部を超え、木村拓哉が主演した今年1月公開の映画も大ヒットした。

都内で連続殺人事件が発生。残された暗号から次の犯行場所はホテル・コルテシア東京であると判明する。警視庁捜査一課の刑事・新田浩介(瀬戸かずや)はホテルマンとなって潜入捜査を開始。優秀なフロントクラークの山岸尚美(朝月希和)が教育係につく。

☆瀬戸かずや(せと・かずや)12月17日、東京生まれ。04年入団。花組配属。10年「麗しのサブリナ」で新人公演初主演。16年「アイラブアインシュタイン」で、13年目にして兵庫・宝塚バウホール初主演。昨年初頭「ポーの一族」でポーツネル男爵を好演するなど、渋い男性像にも定評。同末の専科スター凪七瑠海主演の「蘭陵王」では、女性の心を持つ権力者を演じて新境地を開いた。身長172センチ。愛称「あきら」。