先ごろ発表された「2019ユーキャン新語・流行語大賞」に、ラグビー日本代表チームのスローガン「ONE TEAM(ワンチーム)」が選ばれた。選考理由の中に「テレビの視聴率もうなぎ上り」とあったが、その背景にあったテレビ業界の「ワンチーム」ぶりも強く印象に残る。局同士、垣根を越えたアイコンタクトがあったという。

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W杯の日本戦視聴率を振り返ると、開幕戦日本対ロシア18・3%(9月20日、日本テレビ)、日本対アイルランド22・5%(9月28日、NHK)、日本対サモア32・8%(10月5日、日テレ)、日本対スコットランド39・2%(10月13日、日テレ)、準々決勝日本対南ア41・6%(いずれもビデオリサーチ調べ、関東地区)。NHK木田幸紀放送総局長は「30年前、40年前なら分かるが、令和元年でここまで視聴率を取れるとは」と、昭和のような視聴率に驚きのコメントをしている。

ちなみに、9月6日に行われた日本対南アのテストマッチの視聴率は、ゴールデンタイムの中継にもかかわらず6・5%(日テレ)。開幕2週間前までは、盛り上がっていたとは言い難い状況だった。

そんな中、貢献度大とされるのが、TBS日曜劇場「ノーサイド・ゲーム」だ。慶大ラグビー部出身の福沢克雄氏が演出を手掛け、部の後輩である元日本代表主将、広瀬俊朗氏が俳優初挑戦でエース役を演じるダイナミックな挑戦。臨場感あふれるラグビーシーンと、広瀬演じるSO浜畑譲のスター性が大いに話題になった。開幕5日前に感動の最終回というタイミング。浜畑ファンやにわかファンを量産し、開幕へつなげた。

TBSの絶好のパスを日テレも意気に感じたのか、人気番組「しゃべくり007」に広瀬をスペシャルゲストとして呼び、「ノーサイド・ゲーム」最終回の告知をさせる異例の展開もあった。その最終回には、日テレW杯中継のスペシャルサポーター櫻井翔がライバルチームのGM役で出演。局の垣根を越えたパス回しが話題になった。

異色コラボはNHKも例外ではない。広瀬がNHK・BS1「日本対ロシア」の解説を務めた際には、紹介時に今やすっかりラグビーソングとして定着した「ノーサイド・ゲーム」の主題歌「馬と鹿」(米津玄師)を流し、ネットも「NHKで『馬と鹿』流れた」「NHKが思いっきりドラマに乗っかってきた」と歓迎で沸いた。

開幕直前には、NHKと日テレがコラボ番組を放送しているし、フジテレビは9月26日に「奇跡体験!アンビリバボーSP」で、慶大ラグビー部の奇跡の富士登山を特集。ギャラクシー賞上期奨励賞に選ばれる感動ドキュメンタリーは「神回」と話題になり、2日後のアイルランド戦中継に追い風を送っている。

各局で同時多発したさまざまなコラボに、民放の中堅スタッフは「現場レベルでは分からない謎のラグビー人脈がテレビ界にはあるのかもしれない」と笑い「視聴率競争を考えれば複雑だが、こういうこともできるのかといい経験になった」と語る。

謎のラグビー人脈はさておき、実際、テレビ局には伝統的に元ラガーマンが多い。TBSの佐々木卓社長は早大ラグビー部の元スター選手であり、07年からの日テレ×ラグビーのキーパーソンである福田博之取締役も元ラガーマン。広瀬の俳優デビューは慶大ラグビー部人脈だし、日テレとTBSの両局で盛り上げに一役買った櫻井もラグビー経験者。その櫻井と広瀬とは慶大の同級生…。

ついでに言えば、企業のトップにもラガーマンは多く、「自国開催をなんとしても盛り上げたい」というパワーをあちこちで感じた。マイナースポーツでありながら、この国の組織では超メジャーというラグビーの存在感を実感する。

「ノーサイド・ゲーム」と日テレのコラボについて、TBSの佐々木社長に聞くと「そんなに計画的ではなくて、ドラマが始まってから、お互いのアイコンタクトという感じ。現場で自然にアイデアが浮かんだのかなあと思う」。ライバル局の高視聴率に貢献することにもなったが、「スポーツが盛り上がるということは、日本が元気になるということ。マイナースポーツがこれだけ大ブームになり、ニッポンが元気になったお祭りに少しでも加担できたなら幸せ。テレビの影響力も再認識することができた」と総括している。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)