市村正親(70)が来年5、6月に上演されるミュージカル「ミス・サイゴン」(東京・帝国劇場)に続投出演することが24日、分かった。16~17年の上演時、92年初演から演じたエンジニア役の卒業を明言していたが、日刊スポーツの取材に応じた市村は「できる限りは続けたい」と話し、ファンにはうれしい卒業撤回となった。

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続投の予兆はあった。16年10月からの公演前は「ファイナルとして、こん身の力で演じきりたい」と卒業を決めていた。しかし、公演が始まると、役者の本能で続投に気持ちが傾いた。17年1月の千秋楽カーテンコールで「ファイナル公演が無事終わりました。次はリターン公演でお会いしましょう」と、卒業撤回をほのめかした。

先日、来年の公演用のスチール撮りを行った市村は、早くもエンジニアに成りきった。「初演は1週間に10回やったけれど、前回は1日1回で体力的に楽だったし、物足りなかった。まだできるし、やれる限りは続けたいと思った」。

劇団四季を退団し、初めて得た大役エンジニア役に愛着もある。「エンジニアはアメリカン・ドリームを追い求めた男だけど、僕もこの役でアメリカン・ドリームをつかんで俳優人生の転機になった。エンジニアとして生き抜くことが大事だと思った」。

16年に尊敬する森光子さんの名を冠した「奨励賞」を受賞したことも後押しした。受賞盾に「森光子は90歳まで林芙美子を演じました。叶うならば、当たり役エンジニアを、いついつまでも演じられることを願うものであります」と刻印された。「森さんは90歳まで『放浪記』をやった。来年は71歳ですが、70代の方が夢を果たせないエンジニアの切なさが出せる。ますます高齢化社会になる中、僕ら世代に勇気を与えたい。古稀になっても、コキ使われる姿を見せたい」。

14年の公演は胃がんでわずか5回の出演で降板したが、前回公演で復活し、これまでの出演回数は853回。「平成に始まり、令和の時代にまで夢を持ち越せるのは幸せなことだと思う」。令和2年の帝劇で、市村エンジニアが854回目の舞台に上がる。【林尚之】

▽92年5月の「ミス・サイゴン」初日を、皇太子さまもご覧になっている。独身時代で、妹の黒田清子さんとご一緒に観劇された。市村は「ロビーでお会いして、お言葉をかけていただきました。天皇陛下になられて、また見に来ていただければうれしいです」と熱望した。

◆「ミス・サイゴン」 ベトナム戦争を背景にベトナム少女キムと米軍兵士クリスの悲恋を描き、1989年にロンドンで初演。日本初演は92年で、帝劇を数億円かけて大改装。実物大ヘリコプターの登場など話題となり、1年半ロングランした。市村演じるエンジニアは狂言回し的な役で、歌い踊る「アメリカン・ドリーム」が最大の見せ場。