健さんの神秘性を保った降旗さんの存在/悼む

俳優高倉健さん主演の映画「駅STATION」「鉄道員(ぽっぽや)」などでメガホンをとった降旗康男(ふるはた・やすお)監督が20日、肺炎のため死去した。84歳だった。本紙映画担当記者が、降旗監督と高倉さんとの関係を踏まえつつ、その功績を振り返った。

「そういうことは降旗さんに聞いて」。「鉄道員」の頃から、高倉健さんに、よく言われた。「映画トップスター高倉健」の本音や素顔を聞き出すことは、映画記者にとって難易度の高い仕事だった。「プライベートを明かすのは、映画俳優には必要のないこと」という高倉さんは、私生活はもちろん、俳優としてのこだわりや考えも、よほどの信頼関係がない人間にしか、本音を明かさなかった。

それでも食らいつくと、高倉さんは、自分の思いは降旗さんが話してくれると言った。2人は東映時代の「網走番外地」の撮影から苦楽を共にした仲。それならばと降旗監督に聞くと「本当は、おしゃべりな人。お酒は飲まないのに、私が酒好きですから、一升瓶を持って、話をしに来るような人なんです」。

数週間後、高倉さんに話を聞く機会に恵まれた。「降(旗)さんは、どんなことをしゃべっても、黙って聞いてくれる。私も酒は少しは飲んだと思うんだけどね」と笑い、「話を聞いて欲しかった。世間が思う『高倉健』をどうしたいのか、もちろん自分も考えていたけど、一番分かっているのは、降さんだったんじゃないかな。あれこれ言ったけど、黙って聞いてくれたから」。

寡黙と言われた高倉さんの神秘性を保ったのは、その思いを受け止めた降旗さんの存在が限りなく大きかった。【文化社会部映画担当・松田秀彦】