俳優渋川清彦(44)が連続ドラマに初主演した「柴公園」が映画化され(綾部真弥監督)14日に公開された。渋川演じる、柴犬を飼う“あたるパパ”大西信満演じる“じっちゃんパパ”ドロンズ石本演じる“さちこパパ”のおっさん3人が、公園で無駄話を続けるドラマから、映画では秘められた、あたるパパの日常生活が深く描かれ、展開が一変する。渋川が日刊スポーツの取材に応じ、ドラマと映画を並行した初めてのハードな撮影を振り返った。【村上幸将】

-◇-◇-◇-◇-◇-

渋川が映画に向き合う姿勢は、時が流れ、年齢を重ねようとも一貫している。

「(作品の)でかい、小さいにこだわりなく、面白そうだからやる」

「映画は熱があるから面白い」

「芝公園」では初の連ドラ主演の大役も果たしたが、力みはかけらもない。

渋川 脚本を見て面白かった。やっぱり、脚本に限りますよね。でも、初の連ドラ主演と言えどもローカル局だし、タイミングで、呼ばれたから(思うところは)別に、ないんですよね(笑い)そこは、いつもとあまり変わらず…。

一方で、公園に犬を連れてきた3人がひたすら語り合う会話劇が中心で、せりふも多いドラマ全10話と映画を並行し、しかも1カ月強の短期間で行った撮影は過酷を極めた。

渋川 (撮影期間は)1カ月と1週間くらい…40日くらいですね。かなりタイトですよ。また、せりふの数が多いです。これほどまでの量というのは、なかなか…。長い1シーンであっても、1カットでいくつもりで臨むので大変ですよ(苦笑い)そういう意味では、初めて挑戦したことでしたね。だから常に撮影が終わってからも、疲れていても、せりふを覚える。家に帰ったら覚えたくないので、朝、起きて車の中でその日、その日のせりふを確認して、現場でも空き時間とかにせりふを合わせてもらったり。ドロンズ石本さんが全然、せりふが入っていないので合わせて下さい、ということもあったし…現場で合わせることも結構、多かった。つらかったけど楽しかったですね(笑い)

ドラマは、独身のあたるパパの前に、かわいいポチママ(桜井ユキ)が現れるなど幾つかの出来事はあるものの、3人のおっさんの無駄話に終始する。その流れを受けた映画は、あたるパパの私生活と内省的な一面がフォーカスされる。

渋川 (ドラマは)映画のための滑走路みたいな感じと言えば、そうですよね。ドラマの1~10話と映画の、製本された台本をもらったのが撮影の2週間くらい前だったのかな? その前から、仮の本はあったんですけど、あまり覚える気にならなくて。そういう状況だったので、セリフに追われていて。まずセリフを覚える、間違いないようにというのが先だったので、役どころの職業などの細かな設定は一切、調べられなかった。脚本に書かれているものを、やろうということだけでしたね。

そう口にした渋川は、足元に視線を向けて考え込み、つぶやくように語った。

渋川 ドラマと映画を一緒、しかもごっちゃ混ぜ…並行で撮っていたので、途中から映画が食い込んできた。ドラマの1話の冒頭で3人が話しているところは(撮影の)終わりの2、3日目に撮ったんです。

完成した今も考えるのは、ドラマと映画の撮影を時に前後しながら行う中で、柴犬を飼うおっさん3人の関係性が描けたのだろうか、ということだった。

渋川 順番で撮っていって、3人の関係が出来ていくのか、結構いろいろやってから、3人の感じが分かってから1話を撮った方が良かったのか…どっちが良かったか(映像の)上がりを見ても分からないんですよね。でも(最後に1話を撮ったことで、3人の関係性は)ちょっとは、こなれてはいましたよね、絶対。それが見えていたなら、良かったということですね。

短期間に複数の映画の撮影を掛け持ちで臨みながら、全く違う役どころを作り込み、せりふを完全に自らの中に入れこむ姿勢に、感嘆の声を上げる監督も少なくない。“最も使いたい俳優”と呼ばれる、ゆえんだ。その渋川の口から、セリフを入れることに苦闘したという言葉が出るのは、まずありえないことだった。

渋川 現場に入る前にセリフが入っていないことって、まずないですからね。入る前は必ず、セリフを入れていきますから…それが追いつかなかったですね。

初めての経験、苦闘の撮影の中。脚本と、とことん向き合い続けた。つかんだものはあるのだろうか?

渋川 達成感みたいなのは、あります。でも、この後に、何かスキルアップ出来ているかなぁとも思ったりもしたけれど、さほど変わらないですね。ちょっとは進歩してるのかなぁ…半歩くらい、進歩したんじゃないですかね? でも、根本は、なかなか変わらないですけどね(苦笑い)芝居も、うまくなったとか、そういうのもないと思いますけどね。何か違う気がするんだよなぁ…何なんだろうなぁ? ドロンズ石本さんも言っていたんですけど、セリフの量だけ覚えて、何となく出来たから、次の仕事とかセリフが少なかったら余裕だろうみたいになっても…現場が変われば全然変わって、セリフ入らなかったりもするし、緊張したりもするし。緊張は一生、するんでしょうけど。

連ドラ主演を含め、初めての挑戦を乗り越えた今も、何も変わらないと口にする一方で、ほんの少しだけ欲が湧いた。

渋川 シリーズものとか、ちょっといいかもなぁ。全く初めてから取り組むのと、1つあるところから、また続けていくのとは、違いそうだから…広がりも出来るので。続いたものがあったら、ちょっとは楽、出来そうじゃないですか(笑い)声がかかれば…くらいですけど(これまでのキャリアで)今まで、そんなにシリーズものはないんで、そう考えると、良いかも知れないですね。

渋川は近年、出身の群馬県で撮影した2本の映画について、シリーズ化を熱望したことがある。光石研と兄弟を演じた15年の「お盆の弟」(大崎章監督)、同郷の渋川市出身で小学校と高校も一緒の飯塚健監督と、企画の立ち上げから一緒に作り上げた18年の「榎田貿易堂」だが、未だ実現していない。「柴公園」は、企画・配給のAMGエンタテイメントは「幼獣マメシバ」「猫侍」「猫忍」などの動物ドラマシリーズに定評がある上、映画は先が続きそうな余韻がある。

渋川 「お盆の弟」にしても「榎田貿易堂」にしても、シリーズにしたいね、と結構、いろいろ言っているんですけど…なかなか、いかないですね。今回「柴公園」で、新しいものが見えたと思ってもらえたならいいですし、これからも、来た仕事をやるだけですよ。これで、シリーズが続けば、いいかなと思いますけど。

インタビューの最後に「ファンにメッセージを」と促すと、らしい言葉が返ってきた。

渋川 一応、主演みたいな感じだし、何か言わないといけないですよね…ないなぁ、別に(苦笑い)まぁ…よく言っているんですけど、人が入ったら、やっぱり何でも出来ると思うので。続編やりたいんで、見に行って下さい。シリーズは、やってみたいんで。

海外へ挑戦、などという野心はない。自分を求めてくれる作品、現場があり、面白ければ大小に関わらず、作品に身を投じる。渋川清彦の、役者としての生き様、映画への愛は不変だ。