和田アキ子(69)と言えば、芸能界のご意見番、豪快な性格で、少しコワモテ。そんなイメージも強いかもしれない。正直自分もそうだったのだが、実際に接してみると、オーラは発していながらも、世間的イメージとは違う、繊細な雰囲気も感じた。

今月10日に和田が出席した、シニアの目の健康を啓発し、人生100年時代を応援するプロジェクト「VISION100」広報大使任命イベントを取材した。会場に円卓が置かれ、スーツ姿の医療業界関係者や専門記者らしき人の姿もあり、通常の芸能イベントより硬派な雰囲気。和田も敏感に察知し「デビュー52年目になるんですが、こういうカタい発表会は初めて。なんなんだ、というくらい緊張しますね。円卓っていうのもディナーショーみたい」と、笑いを誘いながらも「緊張」という言葉を口にした。

冒頭のあいさつの最後も「緊張してますから長くなるんで、これで失礼します」。その後、人生100年時代を漢字1文字で表現するお題で「楽」と表現した際も、「音楽の楽も楽しいって書くんですけど、デビューして52年、歌だけはものすごく緊張して、楽しく歌うところまでいっておりません」と「緊張」を繰り返した。和田は「緊張するというのは、それだけ真摯(しんし)に向き合っていると言うこと」と説明を加えた。

イベント後の取材対応でも、感じられたのは繊細な「サービス精神」。イベントの話からややそれても、ラグビーワールドカップについて「にわか」ファンと自虐しながら「あの松島(幸太朗)。あのスピード感の速いこと。勢いってあるじゃないですか。これはひょっとしたらひょっとする」。吉野彰氏のノーベル化学賞の受賞と併せ「日本全体が何か乗ってきている」とエールを送った。

報道陣から「他に気になる芸能ニュースありますか」というムチャぶりに近い質問にも、笑いながら「ないんですよ。こういう(取材の)ところ好きだし、何か言ってあげたいんだけど」とサービス精神にあふれたコメント。「ご意見番」という高みの立場というよりは、芸能界やスポーツ界の「盛り上げ役」を買って出ているように映った。

思い出すのは今年4月に見た、和田のブルーノート東京公演。本業の歌手のステージだが、イベントと同様に「緊張する」と繰り返し「音楽は一生、勉強」と語りながら、若者に人気のファレル・ウィリアムスやマルーン5のナンバーを熱唱していた。歌手としてどん欲に新境地に挑戦しつつ、中高年が中心の客席のウケを「大丈夫かな」と心配し、配慮していたのが印象に残っている。

イベントは目の健康の啓発が主目的ということもあり、「黄斑変性症、白内障、眼瞼下垂(がんけんかすい)の手術も受けました」と既往症を隠さず語った和田。「今や本心をなかなか言えないみたいな時代になっておりまして、せっかく見える目を持っているのに、生かしていない人が多い」と、コミュニケーションの重要性を説いた後も「目のご不自由な方もいらっしゃいます。来年のパラリンピックで頑張る方もいらっしゃいます」と、配慮を忘れなかった。

SNS文化で、発信することにはリスクも伴う時代。その中で和田は、ご意見番的ポジションを背負う覚悟を持った上で、リップサービスもできるという点で、貴重な存在であることは間違いない。和田がイベントで発した「100歳になっても声さえ出ていれば、真っ赤なマニキュアをしてブルース歌うのが夢。いつか楽しく歌いたい」という言葉には、イメージ通りの力強いバイタリティーと、その対局にある繊細な心、細かい気遣いが、凝縮していたように思う。【大井義明】