テリー・ギリアム監督(79)の「ドン・キホーテ」が24日から公開される。

構想30年、企画頓挫9回。文字通りの「呪われた企画」である。当初はジョニー・デップ主演でスタートし、40億円近い予算を集めたが、洪水でセットや機材が流され、キャストの病気降板が重なって撮影中断に追い込まれた。

ここまでなら、フランシス・フォード・コッポラ監督の「地獄の黙示録」(79年)の製作過程の方が「迫力」がある。ロケ地フィリピンを襲った台風でセットが全壊。コッポラ監督の完璧主義が災いして撮影日数も製作費も当初予定の3倍に膨れあがった。ベトナム戦争のリアルを描くためとの理由から兵士役キャストの間で大麻やLSDがまん延していたとも。

だが、コッポラ監督が編集に2年の歳月を掛けて一気に完成まで持っていったのに対し、ギリアム監督は「平均年2回」脚本を書き直しながら、じっと再開の時を待ち、立ち上げから30年後の2017年についにクランクインにこぎ着けたというのだから、その執念はすさまじい。主演は「スター・ウォーズ」の新シリーズで「カイロ・レン」役を務めたアダム・ドライバーに代わった。デップとはタイプが違うが、好んで作家性の強い作品に出て、役にのめり込むところは似ていると思う。

ドン・キホーテをモチーフに広告を撮りにスペインにやってきたCMディレクター(ドライバー)が、自らを「ドン・キホーテ」と信じ込んでいる出演者の老人(ジョナサン・プライス)に翻弄(ほんろう)される物語。現実と幻想がいつの間にか混じり合い、予想外の結末まで一気に畳みかける。

ギリアム監督は「分別があれば何年も前に止めていたでしょう。でも最後は夢を諦めない者が勝つのです!」とコメントしている。練りに練られた、練られすぎたかもしれない脚本。監督の鬼気にあおられたキャストたちの熱演。映像には圧というか、すさまじいエネルギーが感じられる。

記者にとっては感服させられる1本だったが、強すぎる思い入れには必ず異論が出る。コッポラ監督の「地獄の黙示録」同様、きっと評価は真っ二つに割れるのだろう。【相原斎】