新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、政府が4月7日に7都府県、同16日に全国に緊急事態宣言を発令して以降、止まっていた映画やドラマの撮影が再開され始めた。

リモートが多かった取材も、検温や手指のアルコール消毒の徹底、ソーシャルディスタンスなどを守った上での直接取材の機会が増えてきた。

とはいえ、トイレに行ったり電話をするために取材会場を1度出て、戻ってくる度に検温、消毒を再び受けなければいけない。そもそも、取材時にマスクを着用している時点で、取材の状況はコロナ禍前から一変してしまった。では、取材対象の俳優は、撮影現場や演技における変化を、どう感じ、どう対応しているのか? 会見やイベントで質疑応答がある場合、そのあたりを問う質問が、取材陣の中から出た。

6月30日、都内のTOHOシネマズ日比谷で行われた「『映画館に行こう!』キャンペーン2020」記者会見に出席した役所広司(64)は「僕は撮影の現場は始まっていないですが、情報交換はしています」と、その時点で撮影は行っていないと明かした。その上で「やっぱり、人に触れ合うのが僕たちの仕事のエネルギーになっていくので、本番だけフェイスシールドを外すというのは非常に不便だし、僕たちの仕事としてはリスクが大きいと考えている。みんなその辺は苦労しているみたいですね」と語った。

都内で新型コロナウイルスの新規感染者が107人確認された2日に、吉本興業東京本社で行われた映画「銃2020」(武正晴監督、10日公開)完成発表会見では、佐藤浩市(59)と加藤雅也(57)が、コロナ禍後の新しい生活様式ならぬ“新しい演技様式”について語った。佐藤は質疑応答でコロナ禍以後、演技の面で変わったことがあるかと聞かれると「皆さん、存じ上げているとおり撮影場の前で検温をするし、スタジオに出入りする時は必ず手のアルコール消毒、本番前までは毎回、フェイスガードを着けるということ」と説明。その上で「僕らは、『今までと違うから、こんなこと、やっていられないよ』じゃなく、僕ら自身が、その仕事の仕方に慣れていかないといけないと改めて感じた」と強調した。

加藤も「メークなんかも、していただいていたのを自分でしなければいけない世の中。おんぶに抱っこじゃなく、自分でやっていかなきゃいけない時代になるんだなと。だったら受け入れて、それであってもカメラの前、舞台に立てることに感謝して、仕事は当たり前じゃないと思っていかないといけない」と語った。その上で「フェイスガードを集める、渡す役職が現場で1つ増えていた」と、撮影現場の裏方仕事が増えたと説明。佐藤が「衛生班」と補足した。

佐藤は「コロナ前と後で、確実に世の中自体、人との接触の仕方自体が変わっていくじゃないですか。社会が変容したように、芝居もやっぱり変容する」と、本番前の対応だけでなく、芝居自体も変容していくと言及。その上で「当然、マスクを着けて芝居をするということも、ありうるわけですよね。そこで、顔が見えず目だけで語るしかないシーンも当然、出てくるでしょう。それでいいと思うし、それを逆に自分たちが面白く、違った意味でのつかみにしていく…それしかないと思いますね」と芝居、台本、物語まで、コロナ禍で変わっていく可能性があると言及した。

企画・製作の奥山和由氏も「来月クランクインする映画があるんですけど、それもコロナの今の時代、というふうに脚本を変えちゃいましたもんね。そうでないと、みんなマスクしてやらなきゃいけないから、この6月というシチュエーションに変えるくらいのことは、やっていかないとしょうがない」と続けた。

5日も、東京で111人の新規感染者が確認され、新規感染者数は4日連続で100人を超えた。緊急事態宣言が発令される前の3月末から、影響が出始めていた映画界、芸能界は、業界が再びストップするのではないかという不安を抱えながら、新たな様式を受け入れ、取り組んでいる。