撮影から6年…埋もれかけていた1本の映画が日の目を見た。永瀬正敏(53)の主演映画「二人ノ世界」(藤本啓太監督)が全国5館で公開された。

永瀬は脚本にほれ込み、大学生中心の製作チームが14年に京都で行った撮影に参加。首から下の自由を失った男性を顔だけで表現する難役を、しかもノーギャラで演じた。映画館が新型コロナウイルス感染拡大による休業から営業を再開した中、急きょ公開が決まり「救っていただいた映画。まず知っていただかないと」と訴えた。

永瀬は、体が不自由な男性と盲目の女性ヘルパーの複雑な介助生活を描き、映画業界で話題の脚本と、「映像界の未来である学生と一緒に仕事が出来るのは光栄」という思いから出演を決めた。障がいがある女性を取材し「投げて、受けてというお芝居が全く出来ない。でも障がいがある方は、それが日々。思いを全部抱えて現場に立たないと失礼。上っ面でお芝居してはいけない」という思いで顔だけの演技に挑んだ。

ヘルパー役の土居志央梨(27)は当時学生だったが、盲目の人の、たばこの吸い方まで調べて役作りした。永瀬は「役者も撮影クルーも学生とは思えない立派な仕事。学生が作った映画とひとくくりに出来ない素晴らしいものを作った」と手応えを得た。ただ、完成まで3年かかるなど諸事情から公開の機会を逸した。

都内の映画館が上映を再開した6月上旬、製作側が映画を世に出したいと急きょ動いた。コロナ禍で新作の公開延期が相次ぐ事情もあり、配給に話を持ち掛けてから約1カ月という異例の早さで公開が決まった。永瀬は「心に闇を抱えた2人が出会い、光を見つけていくこの映画は、世界中が大変な今の世の中にリンクするところもあると思う。6年、待ったかいがあった。今、見ていただきたい」と、かみしめるように語った。【村上幸将】

◆「二人ノ世界」 日本シナリオ大賞佳作を受賞し小説化もされた、松下隆一氏の脚本を映画化。京都造形芸術大(現京都芸術大)学科長だった林海象氏がプロデュースし、学生やOBを中心に14年に撮影し17年に完成。バイク事故で36歳で首から下の自由を失った俊作(永瀬)の元に、盲目の華恵(土居)がヘルパーとして現れる。2人きりの介護生活の中、俊作が閉ざした心を次第に開く一方、華恵は人に言えない喪失感を抱えていた。