是枝裕和監督(58)が29日、都内で行われた第33回東京国際映画祭ラインアップ発表会見に出席した。同監督は、同映画祭がコロナ禍を受けてインターナショナルコンペティション、アジアの新鋭監督を集めた部門「アジアの未来」、「日本映画スプラッシュ」と賞を争う3部門を1つに統合した「TOKYO プレミア2020」を設置し、全作品を対象に観客の投票で決める「観客賞」を設けることにした決断を評価。「コンペはやらない方が良いと思う。良い方向転換じゃないかと思っています」と語った。

是枝監督は、「万引き家族」が18年にカンヌ映画祭の最高賞パルムドール、13年には「そして父になる」で同映画祭の審査員賞を受賞するなど、世界各国の映画祭に参加し、世界的に評価を受けてきた。一方で、参加してきた映画祭の中には、米アカデミー賞の前哨戦の1つと言われるトロント映画祭(カナダ)のように、審査員が賞を選ばず観客が観客賞を選ぶ映画祭もある。その点を踏まえ、「コンペを持つかどうかは、映画祭のある種の顔とも言われる。本来の映画祭の目的を明確にしようとした時、映画祭の1番の核になる部分にとって、賞をもらうことは必要なんだろうかと、もう1度、立ち返って考えるべきではないだろうか?」と語った。

是枝監督は初の韓国映画「ブローカー」(仮)の撮影を21年に控える中、今回の映画祭では国際交流基金アジアセンターとの連動企画としてトークシリーズ「アジア交流ラウンジ」を発案した。11月1日から8日までの8日間、日比谷の特設会場から、アジア各国・地域を代表する映画監督と、第一線で活躍する日本の映画人とのオンライン・トークを発信する企画で、自らも参加する。

是枝監督は「日本映画の豊かさ…そこに、げたを履かせて頂いて、僕の映画が評価されている。長い映画の歴史を持っている国は、比例して良い映画祭を持っている。東京国際映画祭がそれ(日本映画の歴史)に見合っているか疑問だった」と指摘。その上で「5年前、提言書のようなものを直接(映画祭の)トップの方が変わる度に手渡ししている。山田洋次監督を囲む食事会の時、僕なりに厳しい批判をしたことを受け、安藤裕康チェアマンが、そこまで言うなら直接、協力してくれないかということか、依頼された」と発案の経緯を説明した。

その上で「映画祭が映画に賞を与えるという場所、という認識が皆さんの中にも多く、結果だけが注目される状況がある。でも参加して感じる映画祭の豊かさは、そことは違う。映画祭の豊かさを伝える時、もしかしたら(賞を与えるコンペティション部門は)ない方が、映画祭に参加する人は考えやすいのではないか?」と持論を語った。

是枝監督は今回、オンラインで世界各国の監督とつながる場を作った先に、やってみたい試みについて聞かれると「直接、東京国際映画祭日本映画祭に集って頂く場を持つこと…これは、ずっと言っています」と語った。その上で「映画祭の会場も分散しているので場所、劇場を押さえること…そこも揺らぐ。そのあたり、きっと来年以降、考えられていくと思う」と映画祭側に注文を付けた。