「画のないアニメ館」生放送の舞台裏で見た匠の技

NHK FM「画のないアニメ館」生放送を終え笑顔の徳井青空(左)と足立梨花。後方は疲労をにじませる清水東氏(撮影・村上幸将)

 NHK FM「画のないアニメ館」が、毎月最終土曜日午後11時から生放送のレギュラー番組となり、29日夜、第1回となる「1号室」の放送を終えた。番組を制作、放送した都内のNHKのスタジオに潜入し、番組作りに密着した。

 「画のないアニメ館」は、16年8月に特番として放送された。

 <1>声優が生放送で実演

 <2>メールとツイッターを使ってリスナーからアイデアを募集。生放送中にも投稿を受け付け、それを元に脚本家が新たな台本を書き、番組終了までに完成させて、声優陣が演じる

という異例の手法で、プロの声優の演技を生で紹介。ネット上で“神番組”と絶賛され、好評を博したことを受けて、単発企画からレギュラー番組に昇格した。MCの女優足立梨花(24)が、開始直後に言った「アニメを音声のみで表現する、画のないアニメを生で披露していきたいと思います」というひと言が、番組を端的に言い表している。

 放送前にホームページで台本を前、後半に分けて公開し、それぞれに空欄を設ける形でリスナーにお題を発表し投稿を募る。声優陣は放送当日にスタジオで台本を渡され、そこで役作りをしてリハーサルを行う。

 この日、放送された「フルーツ大戦争!~匂いの秘密」には、以下のキャストが出演した。

 ケシザベス・ピーチ(主人公) 徳井青空、

 ピーチ夫人 高山みなみ

 アボ・カドー 小西克幸

 イレイサ王子 村田太志

 ナレーション 足立梨花

 声優は画に縛られず、自由度の高い演技が可能で、事前に内容を知っているファンの予測をいい意味で裏切る意味でもアドリブが求められる。そこが、声優の腕の見せどころでもある。

 番組開始から25分で、1話のプロローグからキャスト紹介、前半部の実演を終えた。小西の針の振り切れた演技に声優一堂、笑いが止まらなかった。その後はフリートークタイムとなった。声優陣は面白い投稿をトークでもみ、並行して制作スタッフも投稿をチェックし、松井修平エグゼクティブプロデューサー(EP)に伝える。松井EPは脚本家の清水東氏に付きっきりで、終盤で実演する2話の台本を作成する。

 リスナーから突然、ラップを取り入れるという“むちゃぶり”があった上、新キャラ案の投稿もあり早速、台本に落とし込むことになった。清水氏は「ラップが、ちょっと厳しいですね」と本音を漏らしつつも、台本作りを続けた。

 約8分のフリートークタイム後、午後11時33分から1話後半部の実演が8分強行われた。その後、声優陣は再びフリートークタイムに入り、リスナーの投稿を元に2話のアイデアをもみ始めた。

 2話については、清水氏が序盤3ページ分の台本を書き、声優陣が実演。その間にも投稿を受け付け、それを清水氏が取り入れつつ台本を書き、番組の最後に2話の後半を声優陣が実演する流れとなった。

 清水氏は同11時46分の段階で「まだ大丈夫です」と余裕を見せていたが、深夜0時を過ぎても2話の序盤3ページの台本が出来上がらない。スタジオ内のプリンターで台本を刷り、その場で声優陣に渡す流れになっていたが、プリンターが動く気配もない。高山が「3ページを今、チェックするんでしょ?」と苦笑すれば、徳井も「清水さん、厳しい顔」と突っ込んだ。さらに足立が「プリンターが動かないなぁ」と言った深夜0時3分に、2話序盤3ページの台本が完成。同0時17分に、声優陣による2話序盤の実演が始まり同25分に終了した。

 放送時間が残り35分になった段階で、再びフリートークが始まり、声優陣は2話の後編に向けた投稿のネタをもみ始めたが、当初は深夜0時半の段階で後半部の台本が出来ていたら…という話になっていたという。完全にスケジュールが押している状況も、とにかく、いいアイデアとネタが出ない。清水氏は「今、頑張ってます…」と答えたものの口数が少なくなり、松井EPの表情にも焦りの色が浮かぶ…この日、最大の難局、ヤマ場だった。

 結局、2話後半の台本が完成したのは、放送終了18分前の深夜0時42分だった。清水氏は「最後の方は…ちょっと覚えていない」と疲労感をにじませた。声優陣の手元に台本が届き、実演が始まったのは深夜0時48分。終わったのは同56分30秒…放送終了3分30秒前だった。

 放送終了後、足立と徳井に話を聞いた。

 徳井 めちゃめちゃドタバタだったんですけども…(特番より尺が倍増の)2時間なので、ちょっとは余裕があるのかなと思ったんですけど全然なくて(苦笑い)ゲストに来てくださった声優さんも皆さん、本当に豪華なのとアドリブ力で、楽しい2時間でした。

 足立 私はナレーションだけしか担当していないんですけど、皆さんの温かい心で最後までやり遂げられました。MCの部分でも、皆さんに引っ張っていただくことが多くて、私なんかでいいのかなと思いながら…めっちゃ、ぜいたくじゃないですか! 私くらいですよ、こんな間近で声優さんのすごさを見られるのって!! 皆さんはラジオを通して聴いていらっしゃいますけど、私は目の前で繰り広げられていて。あらためて声優さんの力ってすごいんだなと、この番組で実感して、さらに声優さんが好きになりました。パッと思い浮かんで演技できちゃうのは、さすがですね。

 徳井 来月以降、来てくださる(ゲストの)方が変われば、雰囲気も、私たちの芝居も変わってくると思う。とても楽しみです。

 声優が声でキャラクターに命を吹き込む瞬間を、生で聴くことが出来る機会は希少だ。秒、分単位で脚本を作り、効果音をつける制作陣も、またプロでなければ、ラジオというマスメディアで、しかも即興で全国に届けることは不可能だろう。声と音が紡ぎ出す、匠(たくみ)の技を月1回、堪能してみては、いかがだろうか?【村上幸将】