河瀬直美監督「光」最高賞初受賞へ幸運の兆し4連発

映画「光」の公式会見。左から神野三鈴、水崎綾女、藤竜也、河瀬直美監督、永瀬正敏(撮影・小林千穂)

<カンヌリポート 小林千穂記者>

 カンヌ映画祭の最高賞パルムドールを競うコンペティション部門に選出された河瀬直美監督(47)の「光」(27日公開)の公式会見が23日(日本時間同日)に行われ、河瀬監督、主演の永瀬正敏(50)水崎綾女(28)藤竜也(75)神野三鈴(51)が出席した。河瀬監督にとって5回目のコンペ挑戦。カンヌに入ってから、パルムドール初受賞を予感させる出来事が続いているという。

 20年前の初参加以来、8回目のカンヌ映画祭。河瀬監督は「たくさんの映画人が本当に映画を愛していると感じられる場所。これからも仲間に入れていてください」と感謝した。パルムドールへの意欲を問われると「賞以前に作り続けることが大事」と答えたが、実は受賞に導かれるような不思議な偶然が重なっている。

 カンヌ入りした初日、97年に映画祭初参加した「萌の朱雀」で監督新人賞のカメラドールを与えてくれた審査員にばったり会った。そして07年コンペティション部門で「殯(もがり)の森」がパルムドールに次ぐグランプリを受賞した時に審査員を務めた女優ユマ・サーマンにも再会した。「10年前はありがとうございます」と言うと、サーマンも「覚えてるわよ!」と答えたという。節目でサポートを受けた映画人に会うことが続き、「いろんなものに引き寄せられている」と幸運の兆しを感じている。

 藤は河瀬監督の予感的中を目の当たりにしたことがあると明かした。河瀬監督が雨の現場で「もうすぐ月明かりを出します」と言うと、本当にきれいな月夜になった。藤は「何だかマジカルな力がある」。

 河瀬監督は、永瀬が「河瀬スタイル」と呼ぶ演出法で俳優の力を引き出してきた。弱視のカメラマンを演じた永瀬は、撮影2週間前から、主人公が住む設定のマンションに本当に住み始めた。撮影現場では「スタート」「カット」が掛からない。「いつ撮られてもいいように役を生きている。スペシャルな現場です」。

 「映画は光と影の芸術」という言葉がある。タイトルには映画への愛情を込めた。コンペ作品が上映されるメイン劇場のリュミエールは、映画を発明した兄弟の名を冠しているが、偶然にも光という意味。10年ごとに大きな賞を受賞している「法則」もあるだけに、期待は高まる。

 ◆「光」 映画に音声ガイドを付ける仕事をしている美佐子(水崎綾女)は、弱視のカメラマン雅哉(永瀬正敏)と出会う。無愛想な態度に反感を覚えた美佐子だったが、写真の魅力や人柄にひかれていく。雅哉は視力を完全に失ってしまう恐怖を感じながら日々を過ごしていた。