永瀬正敏「河瀬さん取って」パルムドールへ「光」

主演映画「光」でカンヌ映画祭に参加中の永瀬正敏(撮影・小林千穂)

<カンヌリポート 小林千穂記者>

 第70回カンヌ映画祭は、28日夜(日本時間29日未明)に授賞式が行われ、コンペティション部門の最高賞パルムドールなど各賞が発表される。日本から選出された「光」(河瀬直美監督)に主演した永瀬正敏(50)がこのほど、滞在中のカンヌで取材に応じた。また27日、同作はキリスト教関連の団体から贈られるエキュメニカル審査員賞を受賞した。

 授賞式を目前に控え、永瀬は「河瀬さんには何か(賞を)取ってほしいです。スーパーベストを尽くされたので、取れなかったら僕の芝居の責任です」と、謙遜を交え、期待を寄せた。

 公式上映では10分間のスタンディングオベーションを受け、号泣した。マスコミ向け上映でも拍手が何度も起こった。上映後から、永瀬への海外メディアの取材依頼が相次いだ。北米、南米、ヨーロッパ、テレビ、雑誌、新聞、批評家など、国や地域、媒体もさまざまで、予定していた10倍になったが、自分が注目されていることには「スタンディングオベーションでの、たくさんの拍手がプレゼントです」と無欲だ。

 弱視のカメラマン、雅哉を演じるにあたり、視覚に障害のある人たちに話を聞いて撮影に挑んだ。「彼ら、彼女らがいなかったら、僕は雅哉を生きられなかった」と言う永瀬は、レッドカーペットを一緒に歩きたいと考え、スタッフも各所と交渉した。しかし、盲導犬やホテルの受け入れ態勢の問題で断念せざるを得なかった。一緒には来られなかったが、報告を兼ね、カンヌ映画祭のシンボル、シュロの葉をあしらったキーホルダーをおみやげに買った。「手で触ってカンヌ映画祭だと分かるものを。ピンバッジもあったんですが、手で触った時危ないですから」と、配慮を欠かさない。

 デビュー作以来34年ぶりの共演となった藤竜也(75)の背中を見てきたように、後輩たちも永瀬の背中を見ているはずだ。「(海外に)出て行ける環境は、僕たちの時よりいっぱいある。歩みを止めず出向いていくことが大事」とエールを送る。同時に自分も奮い立たせる。「僕は『まだまだ×10』の役者。半歩でも1歩でも進みたい。もっと頑張らなきゃ。立ち止まったら何もできない」。

 昨年11月の撮了後、なかなか役から抜けきれなかったが、カンヌで再び役へと引き戻された。来月は別作品の撮影に入る。「どうすりゃいいですかね」と苦笑いしたが、やりきった充足感で晴れやかだった。

 ◆エキュメニカル審査員賞 キリスト教徒の映画製作者や評論家らによって1974年に創設されたエキュメニカル審査員賞は、人間の内面を豊かに描き、芸術的に優れた作品に贈られる。河瀬監督は受賞会見で「70周年という記念の年に、栄えある賞をいただけて、誇りに思います。公式上映の時に2300人の人たちと一体感を持てたことがうれしかった」とスピーチ、永瀬も「歴史あるすばらしい賞。感謝しています」と喜んだ。同賞は他の映画祭にも創設されており、最近では14年のモントリオール世界映画祭で、吉永小百合が初プロデュースした「ふしぎな岬の物語」が受賞した。