短髪に8キロ減の佐野元春、呼吸するように音楽語る

ライブ公演の情熱をパワーに活動を続ける佐野元春(撮影・山崎哲司)

 シンガー・ソングライター佐野元春(61)が、2年ぶりとなる新アルバム「MANIJU(マニジュ)」を発表した。音楽に向き合う真摯(しんし)な姿勢やその作品は、多くのミュージシャンに影響を与えてきた。散歩していても、泳いでいても、曲が思い浮かぶという音楽一色のライフスタイルを語った。

 髪を短く切り、今年に入って体重を8キロほど落とした。「35周年が終わったので『新・佐野元春』でいこうかなと」。バックバンドのザ・コヨーテバンドと組んで制作したアルバムは「MANIJU」で4枚目。「基本的な演奏は変わりなく、全体の響きとソングライティング(作詞作曲)はこれまでの3枚とアプローチを変え、自分たちにとって新しいものを作ったつもりです」。

 これまで何度も壁はあった。「これまで何回か曲が作れなくて、悩んだ時期もありましたが、ザ・コヨーテバンドを結成後、ここ12、13年はどんどん曲ができる」。スランプを乗り越えるコツは「無理しない」ことだという。「曲や詞が出て来ない時はそのままにする。インスピレーションが湧くのを辛抱強く待つことですね」。

 曲は日常生活から生まれる。「歩いている時、泳いでいる時に浮かぶことが多い。街に出た時など、いろいろな人たちを観察して、その人々にどんなストーリーがあるのか想像したりします。僕は東京に生まれて東京で育っているので、街にいるのが大好きなんです」。新アルバムでも、都市で生活する人々の憂いなどを歌っている。

 ほぼ毎日、自宅近くのアトリエで曲作りを行う。「発表する、しないにかかわらず、楽器に向かったり、リリック(歌詞)を練ったり。特に午前中、曲作りをします。夏は午前7時20、30分に起き、夜は2時半ぐらいまで何かをやっていますね」。ストックは100曲以上に及ぶ。「インストゥルメンタルの曲だったら毎日できる。難しいのは言葉付きの音楽。言葉がないんだったら、いくらでも出てきます」。

 「ビート詩人」の異名を持つ。誰にでも分かりやすい言葉を小気味よいサウンドで包む曲の数々は、メッセージ性も感じる。とはいえ、押しつけも感じず、ストレートに何かを訴えるものではなく、どこか客観性を感じさせる。「自分がこう考えたりとか、悲しいとか、つらいとか、僕は1度も歌ったことはない。できるだけ目の前にあるものを正確にスケッチして、それを曲にする。それが僕のやり方。ソングライターとして日々生きていますから。自分がスケッチしたものを他の人が見て、自分なりの感想みたいなものが、そこにあるんじゃないかと思います」。

 常に聞き手の存在を意識する。日本語を乗せたロックの第一人者の曲作りは計算し尽くされている。「聞き手に言葉を置きにいくような、ライティングを心掛けています。しゃべるように歌う。僕の曲を聴いていると、詞がス、スッと入っていく。日本語の曲でそういう曲は多くはないです。言葉とビート、メロディーが、それぞれの間でつなぎ目がない表現。それを自分のスタイルにしている。佐野元春独特なもので、誰もまねできないものではないかと思っています」。

 小学6年の時、ギターを始め、ピアノを猛特訓して曲作りを始めた。創作活動は50年近くになる。「何でここまで止まることなく続けられるのか、僕もすごく不思議です。音楽に対するリスペクトと情熱は、誰にも負けないぞ、という自負があるので、原動力はそれかもしれない」。

 テレビは持っていない。情報はインターネットやラジオを通じて得る。自分の関心や興味に応じ、情報を集めるコンピュータープログラミングも自分で行う。「その辺で僕を雇ってくれないかな(笑い)。『プログラマーが足りない』とか言ってるから。ミュージシャンをやめても何でもできるぞ、と思っています」。

 週に2、3回、約1000メートル泳ぐ。アルコールはあまり飲まない。毎朝ビタミン剤を飲むなど健康に気を配るが「年齢は関係ない」という。「年齢の数字ってあくまで数字でしかない。人それぞれコンディションは違うと思う。僕らがいるクリエーティブの世界は年齢ではなく、いいアイデアを持ったやつが勝ちなんです。年齢では区切れない。これは大前提なんです。僕は、いつもそういうふうにして、人を見てます」。

 あらゆることが、音楽に帰結する。音楽以外に興味があることを聞くと「言葉に詰まっちゃうよね」という。「音楽を窓口にして全部を見ている。全てが音楽、ソングライティングと切り離せないような気がしています。それ以外だと…時々、玄関の前にヘビが出るのをどうにかして欲しいとかね(笑い)。雨が降った後、にょろっと出てきて、ビックリしますよ。干からびて、紐(ひも)と間違える時もある。そういう、ささいなことです」。

 音楽と離れた時間があるとするなら、何をしているのだろうか。「あらためて聞かれると、何をしているんだろうかと思いますね。プライベートな時間も、音楽はそばにあるんだろうと思います。呼吸をするように音楽が…そう、これはインタビューのタイトルになると思いますよ。『常に僕の人生に、呼吸のように音楽がある。佐野元春』。あとは(紙面に)格好いい写真をピッとね」。

 生み出される作品と同様に、言葉も小気味がよく、明快。歌うように話す。聴き心地がよく、すっとなじんだ。【近藤由美子】

 ◆佐野元春(さの・もとはる)1956年(昭31)3月13日、東京都生まれ。立大卒。80年シングル「アンジェリーナ」でデビュー。代表曲は「ガラスのジェネレーション」「SOMEDAY」「約束の橋」など多数。尾崎豊さんや吉川晃司ら影響を受けたミュージシャンは多数。DJ、雑誌編集など幅広い表現活動を行ってきた。04年に音楽レーベル「DaisyMusic」を設立。血液型B。

 ◆「MANIJU(マニジュ)」 通常版は全12曲を収録。特別編集版はディスク1は全12曲、ディスク2は「元春レイディオ・ショー特別盤」を収録、DVDやアートブックなども封入。「マニジュ」とは禅語で「神秘的な力をもつ玉」を示す「摩尼珠(まにしゅ)」に由来。