小林稔侍映画初主演、高倉健さん喜んでもらえるかな

映画「星めぐりの町」で東日本大震災で家族を失い心を閉ざした少年を引き取る豆腐職人を演じる小林稔侍

 俳優小林稔侍(76)が芸歴57年目にして初めて映画に初主演する。作品は「星めぐりの町」(来年1月公開、黒土三男監督)。1961年(昭36)に東映ニューフェースとして映画界に入ってから56年。「自分の人生のような作品に出会えた」という、その思いを聞いてみた。

 小林が演じるのは、生まれ故郷の愛知・豊田で手作りの豆腐店を営む島田勇作。妻を亡くし、娘の志保(壇蜜)と暮らすところへ、東日本大震災で家族全員を亡くした遠縁の少年・政美がやって来る。心を閉ざす少年を見守り、豆腐を作り続ける物語だ。

 「少年が、豆腐作りを見ているうちに心を開く。なんか自分の俳優人生を見ているみたいだった。コツコツやってれば、誰かが見ていてくれるってね。この脚本をもらった時、これは自分の人生だと。死んだら、この脚本を棺おけに入れてもらいたいですね」

 76歳にして初主演。「映画の主演なんてありえないと思っていた。20年前に話があったけど、実現しなかったから。出会いですね。運をもらえたと思っています」。

 小林は東映ニューフェース、バリバリのスター候補生だった。だが、芽が出るのは遅かった。ゲイの役を引き受けて、目をかけてくれているプロデューサーから叱られることもあった。「女房子供を抱えてますからね。警察のお縄にならなきゃ、なんだってやりましたよ」と振り返る。

 86年、NHK連続テレビ小説「はね駒」の主人公の父親役で注目を浴びる。78年には故高倉健さん主演の「冬の華」では、一言もセリフがない役で話題となり、99年には健さん主演の「鉄道員(ぽっぽや)」で日本アカデミー賞最優秀助演男優賞。健さんとはプライベートでも親交があった。「なんとなしに声をかけてもらって、一緒にね、くっついているのが楽しかったんですよ。いや、まあ、お世話になりました」。

 3年前、健さんは83歳で亡くなった。「正月に食事してる時に『僕なりにこれで十分』と話したんです。すると健さんが突然、『90だよ!』って絶叫した。90歳までやりたかったんでしょうね」。

 健さんのいなくなった映画界で、初めて主役の座をつかんだ。「何も供養はできませんが、この世界で選んでいただいていることが一番喜んでもらえるかな。まあ、おこがましいんですけどね」。【小谷野俊哉】

 ◆小林稔侍(こばやし・ねんじ)1941年(昭16)2月7日、和歌山県生まれ。61年東映ニューフェース。63年映画「警視庁物語 十代の足どり」で俳優デビュー。75年ピラニア軍団結成。映画は、78年「冬の華」81年「駅 STATON」98年「学校3」などに出演。99年に「鉄道員(ぽっぽや)」で日本アカデミー賞最優秀助演男優賞受賞。89年、テレビ朝日系「なんでも屋奮戦記」でドラマ初主演。180センチ。血液型A。