梅沢富美男、止まらない“熟年の主張”を全文公開

梅沢富美男

 男子フィギュアスケート羽生結弦2大会連続金メダル、藤井聡太五段史上最年少優勝で六段昇格…日本の若者の大活躍を報じる18日付紙面。誠に活気があって素晴らしい。

 そんな中、元気なおじさん、梅沢富美男(67)をインタビュー面「日曜日のヒーロー」で取り上げた。

 インタビューというのは、撮影込みで1時間というのが基本。時間が短くなることがあっても、長くなることはめったにない。

 梅沢の著書「顔で笑って、心で泣いて。-忘れられない母のことば」(ブックマン社)について話を聞いたのだが、当然のごとく話はそれだけにとどまらない。昔は「新聞記者のくせに録音機を使うなんて邪道だ」などと言われもしたが、当然のごとくICレコーダーを使う。一緒にメモも取ろうと思うのだが、寄る年波で手の動きが追いつかない。

 今回は出版社の意向で動画撮影をしながらのインタビュー。となると、証拠が残されてしまうので、自分の体験を面白おかしく語ることを控え、黒柳徹子さんのテレビ朝日系「徹子の部屋」のように、質問をして、後は相手のしゃべるがままに任せた。

 が、梅沢富美男の“熟年の主張”は止まらない。テープ起こしをすると、実に2600行(!)という膨大な量になった。これを苦心惨憺(さんたん)して200行にまとめたのだが、当然ながらズッポリと削る部分ばかり。もったいないので、ここで紹介します。

 

 不倫について聞くと「自分は高い金を出して飲みに行って、女のケツを触っている。それのどこが悪い。それに旦那のいる女に手を出したことがない」とキッパリと哲学を披露した。何年か前に、娘さんの同級生をナンパしたことを聞いた覚えがあるのだが…。

 「あれ、ナンパっていうのはね、テレビでね、バラエティーですからそういう言葉をつかって盛り上げたんです。たまたま麻布でお食事してたら、若い子たちが3人来て、僕の顔を見たら、梅沢富美男さんだって言うから『うん、こっちおいで、ご飯食べよう』って。普通にご飯を食べさせて帰ったんですよ。その時に写真撮っていいですかって言うので、ああいいよって。それで、ピースサインして家に帰ったら、うちの娘が『友達ナンパしてんじゃねえ』って(笑い)。小学校3年生の時にうちに遊びに来た子なんですよ。立派なお嬢さんになって。ああこれネタになるなあって」

 以上が真相だ。

 ネットニュースでも、よく炎上する。たばこを買う時にコンビニ店員に年齢確認ボタンを押すように言われて激怒。差し入れ用のハンバーガーを40個買って、食べていくかと聞かれて激怒した。

 「だって僕の顔を見てですよ、僕がたばこを買って、未成年に見えるかって。客商売やってんだったら、それぐらいの配慮はしろよと。そこでボタン押せるだろうって。どう見ても、これはおじいちゃんに見えるだろうって。ハンバーガーも40個にコーラを40杯を注文したら、こちらで食べていきますかって聞かれたから、面白いこと言うなって言ったの。そんなもん、誰が食うか! 食ってみろって。で、これもネタになるって、ちょっと盛って話したら炎上したと」

 叱るのは、それが年長者のつとめだと思っているからだ。マニュアル通りの接客で礼を書いた若者の道を正している。

 「僕らの時代は、隣近所のじいちゃんが、平気で他人の子を殴り倒してたんです、悪い事をしていると。何をして殴られたか分かるか? って、教えてくれたんです。僕は大事な事だと思いますけどねえ。先輩に殴られた事が何度もありますから。その殴られた事がいいとか悪いとかじゃなくって、間違った事をしたんだったら、何かの形で怒られないと分からない。何が悪かったのか、何がよかったのか。僕は、昔はそういう事が沢山あったのが、よかったんじゃないかと思うんですけど」

 母のことも本に書いた。父清さんのことも、テレビなどで詳しく伝えられている。両親もそうだが、先代座長の長兄武生さんにも、深く感謝の気持ちを抱いている。

 「僕にとっては、まあ、師匠でしょうかねえ。お芝居、教えてくれたり。11歳ちがうんです。で、僕を福島から引き上げてくれたのも兄貴ですから。僕に役者の道をつくってくれたのも兄貴ですから。そういう意味ではとっても尊敬してますね」

 82年に出した「夢芝居」が大ヒット。83年にはNHK紅白歌合戦に出場。「下町の玉三郎」として、大ブームを起こした。

 「劇団を大事に守ってましたからね。だから、母親と父親がいて、僕が『夢芝居』で紅白に出た年に、父親が亡くなったんですけどね。その時に小さなアパートからおやじを葬式にだしたんですね。その時に兄貴が『母ちゃんを死なせる時は、てめえの家で死なせてやれよ』って。それで、お前、今テレビに出てもっともっとスターになるんだと思うけど、実演やってくれねえかと。で、僕は兄貴の言葉で5年間、テレビには1回も出なかった。舞台ばっかり出てた。まあ頑張って、5年間、6年間、年に300日公演をやっていましたから、家も買ってあげられました。やっぱりそういう意味では、おふくろは『どんなに富美男がテレビで人気者になっても、やっぱり舞台で輝いてる富美男が好きだ』って、ずっと言ってましたね」

 大衆演劇のスター、梅沢富美男。比較される歌舞伎に対する思いは。

 「僕なんかは、海外に行くとと必ず『カブキ』って言われますから。歌舞伎じゃないんですけど…と。で、大衆演劇だって言葉は僕から始まったんですよ。で、歌舞伎の芝居も大衆演劇だろうって。大衆の人が見て、はじめて歌舞伎ってなりたったの、昔は河原●●●って言われたんだよと。それがなんで高尚で、俺たちが大衆演劇なんだよと。俺たちのルーツは歌舞伎なんだよ、うちのおやじのお師匠さんの市川梅昇は、市川團十郎のお弟子さんだったんですよ。ただ、家柄がないので、どんなにうまくたって役をもらえないんですよ、歌舞伎は。そうすると、若い者だけ集まって『俺たちだけの演劇をやろうじゃないか』と、剣劇っていうのを作ったの。だから、もとを正せば歌舞伎なんですよ、演劇のルーツが。だから、なんでそんなに差別するのかって。歌舞伎座に上がってる役者だけが偉いのかって。おふくろも、よく、『かまぼこ板もひのき舞台も一緒だよ。客が決めるんだよ、お前の価値を』。常に言ってましたね。大衆演劇といわれる小さい舞台にあがっている役者だって、プライドもってるんだから、どこに卑下するところがありますか、と」

 歌舞伎界に対する反発は大きいのか。

 「うーん。反発っていうか、こいつら楽な仕事をやってんなとは思いましたけどもね。だってほら、古典だから。古典なんて、一回やれば忘れませんからね。で、親の世代から、ずうっと何十年何百年と同じ芝居をやってる。こんな楽な仕事はないんじゃないですか。僕らは常に新作ですから。僕は、おふくろにも、『役者さんは、いろんな役をやるのよと。それで、役者っていうのよ』って。だから、うちの兄貴にいわれた事も僕はとってもね、今は役者として、成功したって言われれば成功したきっかけを作ってくれたと思うんですけども、やっぱりプレッシャーがかかるじゃないですか。女形でも。頑張って・・やっぱり、80点は取りてえなって。いただいた役で、二枚目だったら、三枚目だったら…80点は取りてえなって思いますよね。まあ、100点満点とれる役者はいないので、世界中に。何故かっていうと、好き嫌いがあるのでね、お芝居は。だから100点満点は取れないけども、プロは70点、80点の点数を常に取っていかなかったらプロじゃないよっていうのはある。で、プレッシャーあったんですけども、兄貴が、『お前さあ、いろんな役できるじゃん。女形もできるだろ、二枚目も、敵役も三枚目も、歌もできるじゃないかと。踊りもできんじゃねえかよと。で、5つあったとしたら、お前、20点ずつとったら、100点になんじゃねえか、だから5つ見せろよ』と。女形を踊って、芝居して、歌うたって、男も踊って、三枚目もやりゃあいいじゃねえかと。それを全部20点ずつとったら100点になるぞ、楽じゃねえかって。どこかで自分で、肩に意地はって、いいものみせようと。格好つけようなんていう、浅はかな考えを持っていたんだなあっていうのを、解いてくれたのが、兄貴なんですね」

 母親からは「役者の価値はお客が決める。だから引退はない」と言われていた。

 「ただ、客が入らなかったらやめなって。もうあんたの引退だよ、人気がなくなったからねと。1000人入る劇場出て、400人しか入らなかったらもうやめなと。あんたの時代は終わったんだよと。それはお客がきめてくれるからね、そのかわり、いくつになっても、1000人の劇場を1000人入れられるんだったら、永遠にやるしかないんだよと。もうやめてえなあと思っても、あんた、続けなきゃだめよと」

 15歳で飛び込んだ大衆演劇の道。迷いはしたが、本気でやめようと思ったことはない。

 「ありがたいことに、1度もなかったですね。はい。根っから好きなんでしょうね。『チョンパッ』ていうんですけども、暗いところから明るいところにパーンって出て、僕が女形で立った時に、うわあって、あの声援が…。なんか、活力みたいなものですね。これは舞台に立った人間じゃないとちょっと…。僕は、芝居でも、今日のお客さんはこういう色だなあって、例えるんですけども。白だな、赤だな、緑だなって。で、色に合わせてお芝居を少しずつ変化していく。白いお芝居が、だんだんだんだん気がつくと緑になってたという。まあ、歌舞伎、新劇ではこのことは出来ないと思います」

 「下町の玉三郎」と呼ばれる梅沢だが、同い年の坂東玉三郎(67)との交流は一切ない。そのニックネームも「女性誌が付けたもの」とそっけない。大衆演劇を引っ張ってきたプライドがにじんでいる。

 

 長くなりましたが、ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。これで、テレビで梅沢富美男を見るのが、いっそう楽しくなるはずだと思います。