先月、歌舞伎座に行った時のこと。3階席に座ったが、右隣に大向こうさんが座った。役者に「音羽屋!」など、声を掛ける人たちだ。
基本的に、声は誰でも掛けて良いが、主に劇場公認の団体に所属している男性たちが掛ける。彼らは、3階席に座っていることが多い。私の右隣のそのまた右隣も大向こうさんだった。
大向こうさんのすぐ隣に座るのは初めて。始まる直前、男性が私と私の左隣の女性に「私、ちょっと声を掛けますので。大きな声を突然出すと驚かれる方もいるので」と、丁寧に断ってくれた。
間近で聞く掛け声は思った以上に心地よかった。普段は、どこからかふってくる声ばかり聞いていたので、新鮮だった。
人間国宝でもある片岡仁左衛門が出演する直前前の幕あい、私の左隣の女性が、私の右隣にいる大向こうさんに「私、仁左衛門の大ファンなんです。次の演目、たくさん声掛けてください」と頼んでいた。
ここで私は、心の中で「おおおお~」と感動していた。まさに落語の「浮世床」のような状況だったからだ。「浮世床」では、芝居小屋に行って声を掛けていたら、色っぽい美人が「私の分も掛けて」と言ってくる。その後、一杯やるのだが…という内容で、落語らしいオチになっている。
この日はオチなどは何もなかったが、大向こうさんも張り切って、良いタイミングで「松嶋屋!」と掛けていた。
女性は「今日はいいご縁ね」と喜んでいた。いい時間だった。