マジンガーZ主題歌手掛けた渡辺宙明氏が制作秘話

作曲家・渡辺宙明氏が音楽を手掛けたアニメ「マジンガーZ」(C)ダイナミック企画・東映アニメ

 「マジンガーZ」「秘密戦隊ゴレンジャー」などの主題歌を手掛けた作曲家、渡辺宙明(ちゅうめい)氏(92)の特集コンサートが来月21日、東京・文京シビックホールで開催される。世に送り出したアニメや特撮ドラマ、映画の音楽は5000曲以上。今も現役の第一人者が、作品に込めた思いや制作秘話を明かした。

 もともとドラマや映画音楽の仕事をしていた宙明氏が、初めて子供向けに手掛けたのは、72年の特撮番組「人造人間キカイダー」だった。仕事が欲しかった時期に依頼が届いた。参考のためレコード店で「仮面ライダー」「ウルトラマン」の主題歌を聴いたがピンと来なかった。「アクションものにもロック風の音楽が使えるのでは」。完成した「ゴーゴー・キカイダー」は当時の特撮主題歌では珍しいロック調だった。

 72年アニメ「マジンガーZ」はダメ出しを受け、わずか1日で作り直した。「『パンチのある勇ましい曲』と言われ、時間がないから、浮かんだものをバーッと作るしかなかったからね」。水木一郎(70)の力強い歌声も相まって、アニメ主題歌の名曲と言われる。

 75年の特撮「秘密戦隊ゴレンジャー」の主題歌「進め! ゴレンジャー」の有名なフレーズ「バンバラバンバンバン」は、宙明氏のアイデアで加えられた。「何か面白いフレーズはありませんか」と相談され、「『11PM』もあったけど当時は『ダバダバ』『パヤパヤ』などの(ジャズなどの歌唱法の)スキャットがはやっていて、一種のスキャットを入れようと」。10分ほどで思いついた手法は「グレートマジンガー」「鋼鉄ジーグ」にも用いた。

 「メロディーはすらすら出てくる」という天才肌だが、下地は地道に築いた。サックス奏者の渡辺貞夫(85)のジャズ理論教室に3カ月間通った時期もある。幅広いジャンルのレコードを大量購入した。「何が注目すべきテーマソングなのか」とテレビもよく見た。生みの苦しみも味わった。81年の特撮「太陽戦隊サンバルカン」はメロディーは浮かんだが、時代に合うか迷った。映画を見て回り、街を歩き、流れる音楽に耳を傾けた。「ジャニーズの曲が流れていて、受けているんだなと。そこから歌謡曲的な音楽を思い付きました」。今も時代の流れに敏感だ。音楽番組や話題アニメ、戦隊シリーズも見る。「今の戦隊ものやアニメ音楽に魅力は感じない。音楽が曖昧なものが多い。時代の流れだから仕方がないですね」。

 曲作りの極意は「子供も大人も楽しめ、格好良く全編印象的なもの。僕の場合はBGMでも今残っている曲はキャッチーでギュッと引きつける」。依頼があれば今も制作する。お気に入りは「スパイ大作戦」「ミッション・インポッシブル」のテーマ曲。「名作です。ああいう曲を書きたい」。92歳になっても意欲は衰えていない。【近藤由美子】

 ◆渡辺宙明(わたなべ・ちゅうめい)本名・渡辺宙明(みちあき)。1925年(大14)8月19日、愛知県生まれ。東大文学部心理学科卒。作曲家を志し東大在学中から団伊玖磨氏、諸井三郎氏らに師事した。52年に中部日本放送のラジオドラマの音楽を手掛け、作曲家として活動開始。戦隊シリーズや「グレートマジンガー」「宇宙刑事ギャバン」「鋼鉄ジーグ」「野球狂の詩」などのアニメの主題歌や音楽を手掛けた。作曲家の渡辺俊幸氏は長男。