無名俳優の涙に「カメ止め」ヒットの理由/座談会2

ニッカンスポーツコムの「カメラを止めるな!」座談会に参加した俳優陣(撮影・村上幸将)

 6月23日に東京都内の2館の劇場で公開された映画「カメラを止めるな!」(上田慎一郎監督)が、41日後の8月3日に北海道から鹿児島まで全国124館に拡大公開されることが決まった。“最も見ることが難しい映画”“ネタバレ厳禁”の合言葉が飛び交い、著名人、芸能人がSNS上で相次いで絶賛する中、今も「無名」と言われ続ける俳優たち…。15人の俳優がニッカンスポーツコムのリクエストに集結した。“カメ止め座談会”第2回のテーマは「“無名俳優”が流した涙の裏に見えた空前のヒットの理由」。【聞き手・構成=村上幸将】

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 劇中で谷口智和を演じた山口友和(40)は7月28日、台風12号の暴風雨の中、東京・ユーロスペースに足を運んだ。立ち見22人を含む167人の観客を前に約10分間、作品の成立過程などを説明し、同日に全国100館の上映が決まったことを感謝した。舞台あいさつは自主的に手弁当で行ったものだった。

 谷口 “ワークショップ映画”と言いまして、無名の監督と役者が集まり、レッスンを経て映画を撮るという企画の1つで始まった映画。17年11月に東京・新宿K’sシネマという小さい映画館で6回限定の上映ということで始まったんですけど、見てくれたお客さまからの温かい応援と口コミで本当に広がり、6月23日から公開が始まりました。驚きを通り越して、あぜんとしています。(中略)撮影は、計算したトラブルとリアルに起こったトラブルが混在しています。決定稿の台本はありますが、当日もいろいろなトラブルで撮れなかったところもあるし、変わったところも多々ありまして、決定稿がそのまま決定稿になっていません。映っていないところもいっぱいあります。

 上田監督が17年4月にオーディションで選んだメインの12人を中心に俳優、スタッフが手を携えて作り上げた作品は評判を呼び3日、84席の新宿K’sシネマの6倍の489席あるTOHOシネマズ日比谷スクリーン12へと飛躍し、縦15メートル、横6・2メートルの大スクリーンで上映された。観客と映画を見た俳優陣は、思いを口にするだけで感極まった。

 真魚(27=日暮真央役) 自分が出演した映画を、大きいスクリーンで見たいというのは、ずっと役者になった時から思っていたので、不思議だと思う反面、うれしい複雑な気持ち。最後、皆さんが立って拍手した時は、隣に座っていたお母さん役の、しゅはまはるみが、すごい泣いていて…グッときましたね。

 しゅはまはるみ(43=日暮晴美役) 本当に、こんな大きい画面で自分の顔が映るのも、もちろんですけど後ろも全部見えて、ほぼエキストラで参加してくれた役者の仲間たちの顔も全部見えて。あぁ…本当にみんなで作ったんだなと初めて思わず涙が出て。

 大沢真一郎(41=古沢真一郎役) 我々、力のない人間で作った映画が、皆さんの後押しをいただいて、まさか全国でかかるとは、予想だにしませんでした。感謝の言葉だけで、居酒屋2軒くらいは行けます。

 デビュー作で栗原綾奈を演じた合田純奈(24)は福岡から駆け付け涙した。

 合田 人生で感じたことのない感情で…訳が分からないですね。私は演技もしたことがなくて、このプロジェクトに応募して、なぜか受かってしまって、オーディションの時に、何も言えなくなるくらいパニックになったのを上田監督が拾って撮影に加えていただいて。こんな私が、大きいスクリーンに映っている姿が、今も信じられていない。

 俳優陣は全国へと公開が拡大された反響に驚き、喜び、また涙した。

 細井学(59=細田学役) イベント上映の舞台あいさつの映像を見ていたら「この映画はひょっとしたら、ひょっとするかも」と言っていたんですよ。ひょっとしてきたんだなぁと喜んでいます。(メディアが)俺ら俳優もフィーチャーしてくれるようになるなんて…純奈、どうするんだよ。注目されちゃうぞ(笑い)

 長屋和彰(30=神谷和明役) そう考えると、お前…デビュー作で、これなんて伝説の女優だな(笑い)今、波が来ているんで、僕もブレイクしたいです。

 藤村拓矢(30=藤丸拓哉役) 実家が大阪なんですけど、家族には出演したことは9月に梅田で公開してから言おうと思ったんです。そうしたら、兄貴の嫁さんが「この映画、ちょっと気になる」と調べていたら、出演者に僕の名前があって。家族のグループLINEで「お前、映画に出ていたのか?」って。1回も告知していないのに、まさかバレるとは思っていなくてヤバいことになったなと。

 市原洋(32=山ノ内洋役) 日比谷に早く着いて「ゴジラ」のショップに入ったら、男性客が(劇中にも登場する)「ONE CUT OF THE DEAD」のTシャツを着ていて…何だか分かんないですけどビビって逃げちゃいました(苦笑い)。すごく汗をかいたので、新橋の漫画喫茶に行ってシャワーに入ろうとしたら、またTシャツを着た人が…まさか新橋にまでいると思わなかったので本当にビックリしました。

 しゅはま 漫喫帰りで、映画を見に行くつもりだったのかな、その人?(笑い)私も昨日、みんなにLINEしたけど、最寄り駅で声をかけてきた友達がTシャツを着ていて「けいこ帰り?」って。「けいこ、ちゃうわ…何着てるの?」って言って結局、その後、飲みに行っちゃったんですけど、本当にTシャツを着てるなとビックリしました。

 佐渡未来(35=子役の母役) フジタク(藤村)と同じで、私の周りの人は「映画をまだ見ていない」と言うんですけど、その人達が私の知らない第三者から聞いて映画を知っている状況が多くて、知らないところで、どんどん広がる拡散力がすごいなと。

 世間の反響に驚く俳優陣の中、山越俊助役の山崎俊太郎(32)は拡大公開舞台あいさつで製作の過程で危機があったと明かした。

 山崎 ワークショップから作ってきた映画で、たくさんみんなでケンカしたり、笑ったり、泣いたりしながら空中分解寸前のところも結構、ありました。しゅはまさんに「私に心を開いてくれていない」って言われた時は本当にどうなるんだろうと思った。続けていけば自分の苦しさ、息苦しさを誰か救ってくれるのではないかと思ったワークショップだった。結構、ギリギリのところでやってきたことが良かったと思いながら…良い思い出というか。

 「無名役者」と呼ばれることの悔しさを涙ながらに吐露したのは松浦早希役の浅森咲希奈(23)だ。

 浅森 皆さんのおかげで自分が思い描いた夢や目標が、どんどんかなっていって…明日、死んじゃったらどうしようと、いつも寝る前に思ってしまいシンデレラになったような気分。1つ悔しいことがあって…どこも、かしこも「無名役者」って書いて…みんなもすごい悔しいかもしれないけど私はすごい悔しい。「期待の若手女優」と書いてもらえるように…また、ここに立てるよう頑張りたい。

 喜びの涙、驚きの涙、悔しい涙…さまざまな涙の中、最も熱かったのはテレビ局員役の曽我真臣(35)が「『カメラを止めるな!』に関わった皆さん…本当に大好きです。ありがとうございました」と言い、男泣きした感謝の涙だろう。

 映画業界では「映画は公開初日を迎えると、作り手の手を離れて観客のものになる」と、よく言われる。有名な俳優、監督が初日舞台あいさつで口にする“決まり文句”と言っても過言ではないだろう。

 「カメラを止めるな!」は、そうではない。公開後も、曽我が先頭に立って連日、自主的に舞台あいさつを行い、それに俳優陣も引っ張られる形で新宿K’sシネマと池袋シネマ・ロサで手弁当で舞台あいさつを行った。観客と直接会い、サイン、握手をして語り合った。作り手が作品から手を離さず、携え、一緒に走った熱量、作品愛が2館の観客に伝わり、その観客が伝え、その先で見た観客が、また伝え…。作品自体の面白さに加え、ネタバレ出来ないという部分が過熱した要因ではあるが、作り手と観客の“並走感”が、ここまでのムーブメントを呼んだと記者は考えている。

 しゅはまは「ここまで来られたのは、6月23日の上映で初めて会ったのに、ずっと応援してくださった方…そういう方が増えている」と口にした。藤村も「みんなでツイッターの感想にリツイートや、いいね! をしていたんですが、最初は役者仲間だけだったんですけど、今はお客さんの反応をリツイートすると、ファンの人がリツイートを、どんどん拡散してくれています」と振り返った。それらの言葉も、記者の分析の裏付けになるだろう。

 監督、製作陣、俳優と、映画を受け取った観客が一緒に走り、今も走り続けている…だからこそ「カメラを止めるな!」は映画業界では近年、類を見ない反響を呼んでいるのだろう。その勢いを「止めるな!」という声は、高まる一方だ。