菅井きんさん死去、2カ月前までたばこ吸っていた

08年9月、映画「ぼくのおばあちゃん」で世界最高齢映画主演女優にギネス認定された菅井きんさん

時代劇「必殺」シリーズや映画「お葬式」などで名脇役として親しまれた女優菅井きん(すがい・きん)さん(本名・佐藤キミ子=さとう・きみこ)が10日午後2時、心不全のため都内の自宅で亡くなった。92歳だった。近親者のみで密葬を行い、しのぶ会などの予定はないという。「必殺」で「ムコ殿!」のせりふで人気となったが、10年のドラマ出演を最後に休業状態だった。

菅井さんは亡くなる2カ月前まで、大好きなたばこを吸っていた。「女優もたばこも命がけ」が口癖で、晩年もたばこをやめなかった。大きな病気はなかったが、高齢のため徐々に体が衰え、10日、娘夫婦、孫たちにみとられて息を引き取った。

戦後、東京帝大の事務職員から新劇の世界に飛び込んだが、父親は「女優は美人がなるもの」と反対したという。俳優座を経て、映画、ドラマで活躍した。73年スタートの「必殺仕置人」で藤田まことさん演じる中村主水を「ムコ殿!」といびる姑(しゅうと)せん役で人気となり、シリーズに欠かせない存在となった。その時、菅井さんは47歳で、その後は姑役が多くなった。リアルな演技のため、菅井さんは1人娘の結婚の障害になることを心配し、降板を申し出たこともあったという。

73年「太陽にほえろ!」では松田優作さん演じるジーパン刑事の母親役、94年「家なき子」では安達祐実演じるすずに影響を与える鬼婆の演技が話題となるなど、庶民の味を出せる名脇役として活躍した。85年に映画「お葬式」などで日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞した。08年には映画「ぼくのおばあちゃん」に82歳にして映画初主演。当時の世界最高齢映画主演となり、ギネスにも認定された。

私生活では名プロデューサーだった佐藤正之さんと結婚。「いのちぼうにふろう」「砂の器」などの名作を生んだ夫の仕事を支えた。女優としての最後の仕事は、10年にNHK大河ドラマ「龍馬伝」、映画は「瞬 またたき」。当時はせりふを覚えるのも大変な様子で、介護士が付き添っていたという。その後、大腿(だいたい)骨を骨折し、足腰も弱くなり、高齢者向け施設で療養した。14年に一部で「認知症か」と報道された時、テレビの情報番組に出演。認知症を否定し、元気な姿を見せた。それが公の場での最後の姿になった。

◆菅井(すがい)きん 1926年(大15)2月28日、東京生まれ。46年に東京芸術劇場研究生となり、47年に初舞台。俳優座を経て、黒沢明監督「生きる」「赤ひげ」や本多猪四郎監督「ゴジラ」、川島雄三監督「幕末太陽伝」など数多くの映画に出演。ドラマもNHK大河ドラマ「いのち」、同連続テレビ小説「瞳」などがある。90年に紫綬褒章、96年に勲四等宝冠章を受章。