津川雅彦さん遺作 行定監督「生と死の狭間を体現」

会見で東京国際映画祭のプロジェクト「アジア三面鏡」について語る松永大司監督(左)と行定勲監督(撮影・村上幸将)

東京国際映画祭のプロジェクトとして16年に製作され、8月4日に亡くなった津川雅彦さん(享年78)の映画としての遺作となった16年のオムニバス映画「アジア三面鏡2016:リフレクションズ」が、12日から東京・新宿ピカデリーなどで劇場公開されることが決まり、3日、都内の日本外国特派員協会で記者会見が開かれた。

津川さんが出演した「鳩 Pigeon」は、マレーシア・ペナン島を舞台に、ハトを飼いながら生きる孤独な老人の生活を描いた。主人公の田中道三郎を津川さんが、田中の元を月1回、訪ずれるものの確執がある息子の雅夫を永瀬正敏が演じた。行定勲監督(50)は「津川さんがご逝去されたことは、僕もすごくショックで…あの暑いペナン島の日々を思い出さずにはいられません」と悲しみを新たにした。

行定監督は、津川さんにオファーした当時を振り返り「津川さんは、海外の撮影が大嫌い。オファーしてもダメだと思った。僕は自分の祖父をモデルに書きましたが、祖父はどことなく津川さんに似ている。一緒に撮影できたらいいなとお願いした」と語った。そして「津川さんは、どういうわけか『作品に参加する』と言ってくださった。そして『生と死の狭間に存在するような役なんだね』とおっしゃった」と、オファーを受けた際の津川さんの言葉を明かした。

撮影は16年春に行われたが、津川さんは「生と死の狭間に存在するような役」と語った言葉どおり、現地入りした際はやせていたという。行定監督は「マレーシア入りした段階から、明らかに7、8キロやせられて生と死の狭間を体現するようだった。鬼気迫る緊張感は。マレーシアの女優が恐怖を抱くくらいの感じで、すごいものでしたね」と津川さんの執念とも言える役作りについて語った。

津川さんは、ラストに近い海辺のシーンの撮影の際、行定監督に向かってポツンと「死と生の狭間では結局、人は何も出来ないんだな」とつぶやき、ずっとマレーシアの海を見つめ続けていたという。行定監督は「すごく冗舌な芝居をされる方、というのが僕の津川雅彦という俳優に対するイメージでした。マレーシアでは、ただ、そこに存在することを重視していると感じたんです。つめる姿を、ただ固唾(かたず)をのんでカメラを回すしかなかった。津川さんという人間そのものの姿だと記憶しています。この1作しか仕事できませんでしたが、マレーシアのスタッフにも愛された。大きな宝になったと思っています」と感慨深げに語った。

「アジア三面鏡」は、今年で31回目を迎える東京国際映画祭が国際交流基金アジアセンターとの共同事業として始めた。日本を含むアジアの気鋭の監督3人が、1つのテーマを元にオムニバス映画を共同製作する企画で、16年に第1弾として「アジアで共に生きる」をテーマに「アジア三面鏡2016:リフレクションズ」が製作された。

そして今年、第2弾として「アジア三面鏡2018:Journey」が製作され、日本からは15年「トイレのピエタ」、19日に最新作「ハナレイ・ベイ」が初日を迎える松永大司監督(44)が参加した。「アジア三面鏡2018:Journey」は「旅」がテーマで、中国、ミャンマー、日本での旅を通じ、普遍的な親子や夫婦の関係、自分自身が信じてきたものに対する気付きや変化を描いた。

松永監督は「碧朱(へきしゅ)」を手がけた。ミャンマーの首都ヤンゴンで鉄道事業に関わる商社マンの鈴木を長谷川博己が演じ、東京国際映画祭でワールドプレミア上映後、11月9日から新宿ピカデリーなどで上映される。松永監督は「今後、自分の映画をどうしていくか模索していく中で、海外のクルーとやるのも、1つあると思った。言葉も通じないこともありましたが、勉強になったし、日本と違うところもたくさんあった」と語った。