江波杏子さん急死、5日前にラジオ収録していた

13年7月、TBS系「ぴんとこな」の制作発表会見に出席した江波杏子さん

映画「女賭博師」など多くの映画、ドラマに出演した女優江波杏子(えなみ・きょうこ)さん(本名・野平香純=のひら・かすみ)が10月27日午後9時6分、肺気腫(慢性閉塞性肺疾患)の急性増悪のため、都内の病院で死去した。所属事務所が2日、発表した。76歳だった。東京都渋谷区出身。葬儀は近親者らによる密葬で既に営まれた。

突然の旅立ちだった。江波さんは26日午後2時ごろ、都内の自宅で息苦しさを訴えた。親しい友人、事務所関係者が駆けつけ、すぐに病院へ搬送されたが、病状が回復することなく翌27日夜、弟やスタッフに見守られて息を引き取った。

所属事務所によると、江波さんはここ10年ほど肺気腫を患っていたが、普段通りに生活していた。通院もせず、薬も服用していなかった。先月21、22日には、都内スタジオでNHKFMのラジオドラマ「罵詈雑言忠臣蔵」(12月8日午後10時)の収録にも参加。同局関係者も体調の不調を感じなかったという。11月以降の出演作の打ち合わせに参加するなど、次の仕事に意気込んでいたという。

小学生のころに見た映画「落ちた偶像」に衝撃を受け女優を志した。東宝の映画女優だった母江波和子さんからは遺言で「女優にだけはなるな」と猛反対を受けながら、それを押し切り59年に大映のニューフェースオーディションを受験。母の存在を伏せて合格した。

デビュー当初はモダン女優として脇を固める存在だったが、66年の映画初主演作「女の賭場」が大ヒット。女賭博師という個性的な役柄が受けてシリーズ化されるなど、ドル箱スターの仲間入り。りんとしたたたずまいが特徴の女優として定着し、映画だけでなくテレビ、舞台まで幅広く活躍する存在となった。

江波さんが出演した映画「赤穂城断絶」(78年)などの宣伝を担当した元東映の佐々木嗣郎さんは「ブランデーが好きでたばこが似合う。絵になる女優さんでしたけど、中身は女優らしくなかった。酒の席では我々スタッフに交じって、よく自分で作ったクイズを出題して盛り上げてくれました」と振り返った。

グラマラスなボディーで水着やヌードグラビアも披露。近年は母親役も多かったが、今年4月公開の「娼年」では松坂桃李(30)と46歳差の“濡れ場”を演じた。

来年1月11日放送のNHKBSプレミアム「小吉の女房」が最後の出演作となる。所属事務所は「1つ1つの仕事を丁寧にこなして、撮影途中だった作品はありませんでした。見事としか言いようがない」と、江波さんの女優人生をたたえた。

◆江波杏子(えなみ・きょうこ)本名・野平香純。1942年(昭17)10月15日、東京生まれ。59年に大映入り。66年から「女賭博師」シリーズのヒロイン役。72年東映へ。近年はミュージカル「マイ・フェア・レディ」などに出演。ドラマではTBS系「Gメン’75」、フジテレビ系「愛の嵐」、NHK連続テレビ小説「べっぴんさん」など多数出演。今年公開された映画「娼年」では俳優松坂桃李と共演。フジテレビ系ドラマ「限界団地」などにも出演した。

◆肺気腫 肺の気管支の先にある組織(肺胞)が壊れることで、肺の主な機能である酸素と二酸化炭素の交換がうまくいかなくなり、十分な酸素を体に取り入れられなくなる病気。初期はほとんど自覚症状がない。肺機能の低下に伴って運動時の息切れやせき、たんの症状が出る。最も大きな原因は長期間の喫煙。ほか大気や室内の汚染があげられる。肺胞は1度壊れると元に戻すことができない。