松坂桃李「役所さんが取ると」主演男優賞/映画大賞

主演男優賞に輝いた松坂桃李(撮影・山崎安昭)

第31回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞(日刊スポーツ新聞社主催、石原プロモーション協賛)が3日、決定した。

松坂桃李(30)が「娼年」「不能犯」の2作品で主演男優賞に輝いた。今年は「孤狼の血」も合わせて3作に出演し、演技の幅を見せつけた。「娼年」では無気力な大学生が娼夫となり、女性の欲望を解き放つことに生きがいを見つけていく様子を、暗い画面の中で見事に表現。体当たりで挑んださまざまなセックスシーンも高く評価された。

受賞は撮影帰りのアクアラインを走る車中で聞いた。3連休のまっただ中、渋滞にはまってうとうとしていた時だった。

「(「孤狼の血」の)役所さんが取ると思っていたので『誤報だろう』と(笑い)。渋滞を抜けられたところでうれしい気持ちが上がってきました」

「娼年」は16年に舞台で演じた。その演出を務めた三浦監督からオファーを受け、20代最後の主演作として映像に残したいと思った。「舞台で表現しきれなかった、体と体のコミュニケーションの中で生まれてくる繊細な部分を、映像で切り取ることができると思いました」。演じた領は女性と体を重ねるたび、その欲望を引き出すことにやりがいを見つけ、生まれ変わっていく。女優陣とは文字通り体と体でぶつかり合った。

「領は海のような男。広い器があって、そこに女性の悩みやコンプレックス、欲望が入っていく。領が形成されていく感覚を積み重ねて、最後に形になればいいと思っていました」

3週間の撮影期間は、渋谷のビジネスホテルで暮らした。「本来だったらすぐ家に帰っちゃうけど、集中力を完全に切らさない方がいいと思って。初めてです」。

石原裕次郎新人賞を受賞した6年前より、役の幅が広がったという。「成長というより経験値。さまざまな現場に連れて行っていただいたので」と謙遜する。

「20代中盤くらいからは30歳に向けて、今まで通りの仕事ではなく、自分で切り開いていかなきゃと話してきました。うちの事務所はちゃんと背筋を正して『この仕事ぬるくねえぞ』って教えてくれるので、常に危機感はありました」

10月に30歳を迎えた。何にでも染まる役者になるつもりだ。「偏らずいろんなジャンルに呼んでもらえることを目指す。五角形のグラフをちょっとずつ広くしていく感じ。1年1年、ちょっとずつ」。気負いのない柔らかい口調で、さらなる成長を誓った。【杉山理紗】

◆松坂桃李(まつざか・とおり)1988年(昭63)10月17日、神奈川県生まれ。08年に雑誌「FINEBOYS」のモデルオーディション優勝で芸能界入り。09年テレビ朝日系「侍戦隊シンケンジャー」主演で俳優デビュー、同作映画で映画デビュー。映画は「ツナグ」「マエストロ!」「キセキ」、ドラマは「梅ちゃん先生」「サイレーン」「ゆとりですがなにか」など。「ツナグ」で石原裕次郎新人賞を受賞している。183センチ、血液型A。

◆娼年 名門大学生の領(松坂桃李)は、生活や女性との関係に退屈する中、バイト先のバーで、会員制ボーイズクラブを手掛ける御堂静香(真飛聖)と出会う。娼夫のリョウとして仕事するうち、女性の深淵をのぞく。三浦大輔監督。

◆不能犯 変死事件現場で目撃される宇相吹正(松坂桃李)。殺したい相手と理由を伝えると願いをかなえてくれるというが、死因は病死や自殺、事故。見つめるだけで死に追いやるため罪には問われない不能犯を多田刑事(沢尻エリカ)らが追う。白石晃士監督。

◆主演男優賞・選考経過 演技力の松坂桃李、主役感の東出昌大が争った。松坂には「彼の中で一番、魂を削った作品」(伊藤さとり氏)、東出には「スターに必要な存在感がある」(渡辺武信氏)と意見は二分。1回目の投票は同点だったが、決選投票で松坂が競り勝った。