「カメラを止めるな!」が石原裕次郎賞/映画大賞

石原裕次郎賞を受賞した上田慎一郎監督は「カメラを止めるな!」と叫ぶ(撮影・滝沢徹郎)

第31回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞(日刊スポーツ新聞社主催、石原プロモーション協賛)が3日、決定した。

わずか300万円で製作され、6月28日に2館で封切られて5カ月で興行収入(興収)30億円超、350館超での公開と日本映画史に残る大ヒットを記録した「カメラを止めるな!」が石原裕次郎賞に輝いた。上田慎一郎監督(34)は、一連のムーブメントも作品として評価されたことが、同賞受賞の要因と推察した。

上田監督は歴代の受賞作を見て感慨深げに口にした。「骨太の大作が多い中、製作費300万…異例ですよね。こういった作品も選んでいくということ。流れが変わるかもしれない」。

「大作感のある娯楽作」という、石原裕次郎賞の選考基準の対極にある映画だ。昨年1月に新人監督と俳優の養成企画として立ち上げ、オーディションで選んだ12人の俳優のワークショップを経て同6~7月に8日間で撮影。同11月の6回のイベント上映の予定しかなかったが、満席となり6月に都内2館での公開が決まった。

大きく変わる展開と数多くの伏線が絡む物語を見た観客が“ネタバレ厳禁”の合言葉をSNSで拡散する中、上田監督と俳優陣が連日、舞台あいさつを続けた。作り手と観客が手を携えて口コミで映画を広げ、7月に全国に公開が拡大した。上田監督は「2館から350館への拡大は、日本映画界の体質的にも起こせなかった、初めてのことだと思います」と振り返った。

興収10億円超えで大ヒットといわれる昨今、人気俳優が多数出演しても大台を超えない作品は少なくない。そんな日本映画界の常識を覆し、時代を変えたムーブメントは、映画会社間で俳優、監督の引き抜き、貸し出しを禁じた「五社協定」を乗り越え、三船敏郎さんと「黒部の太陽」を製作した裕次郎さんに通じる。

上田監督は「映画界を変えるくらいの何かが出来ると1、2%は信じていた。名もなき人たちが全力を尽くして、厚い壁を壊そうとした物語自体を、世間が受け入れてくれた」と、かみしめるように言った。【村上幸将】

◆上田慎一郎(うえだ・しんいちろう)1984年(昭59)4月7日生まれ、滋賀県長浜市出身。中学時代に独学で映画を学ぶ。高校卒業後に上京も、20~25歳まで映画製作をせず。09年に映画製作団体「PANPOKOPINA」を結成し、10年に監督・脚本を担当した長編「お米とおっぱい」を製作。短編映画を国内の映画賞に出品し「カメラを止めるな!」製作につなげた。妻ふくだみゆき氏も監督として活躍。

◆カメラを止めるな! 自主映画の撮影隊が山奥の廃虚でゾンビ映画を撮影していた。本物を求める日暮監督(浜津隆之)はなかなかOKを出さず42テイクに達する。撮影隊に本物のゾンビが襲いかかり、大喜びする監督と、次々ゾンビ化する撮影隊-。上田慎一郎監督。

◆石原裕次郎賞・選考経過 「カメラを止めるな!」が「孤狼の血」との決選投票を制した。「中身を言わず『行ってみてよ』と言って口コミで広がったのが新しい」(品田英雄氏)と、口コミによる広がりを評価。「『カメ止め』は何らかの賞をもらってもいい」(不破浩一郎氏)との声も。