松下恵、リセットした人生を映画に/インタビュー1

映画「アラフォーの挑戦 アメリカへ」製作について語る松下恵(撮影・村上幸将)

<映画「アラフォーの挑戦 アメリカへ」松下恵インタビューその1>

38歳、独身の女優松下恵が米国に留学し、思い悩んできた結婚、出産、人生について米国人にぶつけた日々を1本の映画にまとめた「アラフォーの挑戦 アメリカへ」(すずきじゅんいち監督)が、6日に東京・新宿K'シネマを皮切りに全国で順次、公開される。松下が日刊スポーツの取材に応じ、結婚、出産への思いを語った。1回目は、リセットしようと思った人生を映画にした理由について語る。【聞き手・構成=村上幸将】

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12歳で女優を始めて、26年…その中で、男性と真剣に交際もしたが、結婚には至らなかった。30代半ばを過ぎ、実家暮らしで趣味もなく、仕事も順調とは言えない…そんな人生をリセットしたいと考えた時、松下のところに米国から1つの企画の話が持ち上がった。

松下 語学学校を経営しているプロデューサーの方から、声をかけていただきました。海外留学をする若者が減ってきているから、海外留学の映画を作りたいって言ってきたんですよ。今は日本の語学学校でも勉強できるし、私はインターネットのオンラインレッスンもしています。ただ実際、行ってみて、現地に滞在するのは空気感から違いますよね。元々、海外に行きたいという気持ちは、とても強かった。ドイツ語が趣味ですし、英語も勉強していますし語学が好きなので、留学したいなという思いは昔からありましたが、その勇気が若い頃はなかった。1カ月行ってみる、ということも、この年になって出来たんですよね。

現地ではカリフォルニア州アーバインで語学学校に通い、ホームステイする中で、ごく一般的な米国の家族、弁護士、日系人の女優、ドラマ「グレイズ・アナトミー」などで知られるデビッド・グリーンスパン監督とプロデューサーを務めるシャロン夫人ら、さまざまな立場の人にインタビュー。結婚、人生について語り合った。劇中では、宣伝文句の“がけっぷち女優”とは裏腹の、恵まれた留学生活が描かれる。

松下 (留学は)楽しかったですよ。環境は本当に恵まれていたので、誰かとうまくいかなくて人間関係で困るということもなかったですし…。自分では“がけっぷち”かどうか、思うところもありますが…でも、そうでもないですよね? 恵まれていますよね。

(語学学校も)初めはついていくまでが大変でした。でも、ホームステイ先も皆さんいい方たちでしたし、学校も楽しいところだったので、そちらも恵まれた環境に飛び込ませてもらったと思いますね。

むしろ、大変だったのは義父でもある、すずき監督を筆頭に少人数で編成された、撮影クルーとの映画作りだった。

松下 どちらかというと、映画を作っている方が大変でした。スタッフは少人数で、予算もない中、ハードスケジュールでやっているので、裏の話の方がいろいろ苦労しましたけども。大変だったのは、日本人の男性カメラマンと監督が毎日、ケンカしているところですかね(苦笑い)2人とも熱いですので、衝突することもありますよね。スタッフは音声を入れて、プロデューサーと4人で1カ月間、限られた時間しかない中で合宿生活…スケジュールも大変でした。みんなで悩みながら作っていた部分もあるし。

映画のテーマは当初、留学とホームステイだった。そのテーマを、12年までの11年間、米国で生活し同国のリアルな姿を切り取って映画を作ってきた、すずき監督が方向付けしていた。その過程の中で、松下が自らアラフォー独身女性が今、思うこと、という方向に、かじを切っていった。

松下 (プロデューサーの提案を受けたため)始まりは、私は受け身ではあるわけですね。当初は留学とホームステイの方がテーマとして大きかったです。ただ、台本がないので現地の人に何をインタビューで聞くかも決まっていない。監督は日系人の映画を撮ってきているので、日米間の違いとか米国にいるからこそ日本の良さが見えてくる、みたいなテーマの方が、どちらかというと得意ですけど、女性の気持ちは分からない。私は米国側の女性プロデューサーと毎日、いろいろ自分の人生の悩みを相談しながら現場に行っていました。その中、彼女から「日本の女性は今、そんなに悩んでいるんだ。米国だと、もうちょっと考え方も違う。じゃあ恵さんの悩みを、もう少し皆さんにぶつけてみたら?」と言われ、テーマが、だんだんと濃く定まっていきました。

語学学校では、授業中に日本文化を説明するよう求められる場面もあった。その中、日本の良さに気づく瞬間もあった。

松下 米国に行っている時は、ポジティブで、みんな明るく、前向きなことしか言わない、いるだけで天気が良い…なんて良いんだろうと思っていました。けれど、日本に帰ってきて、しばらくして、日本人はネガティブなところもあるけれど、自分を深く見詰めるところもある…それが日本の良さなのかなとも思いましたね。

その上で、こう続けた。

松下 最後にインタビューしたシャロンさんは、グリーンスパン監督と私が話す会話を、ずっと聞いていたので、私の悩みを見抜いた上で、何を言えば心に刺さるか分かって、自分をさらけ出して話してくれた。

次回は、松下が映画を作る中で、米国人にぶつけていった結婚や出産の悩みと、その根源にある、女優として歩んできた人生について語る。