和田光沙が「岬の兄妹」で考えた、女性と障害者の性

映画「岬の兄妹」で新たな価値観を得たと語る和田光沙(撮影・村上幸将)

<映画「岬の兄妹」和田光沙インタビューその2>

足が悪い兄が生活のために、自閉症の妹の、売春のあっせんを始め、生活費を稼ぐ…そんな兄妹を通し、家族の本質を問う映画「岬の兄妹」(片山慎三監督)が全国で拡大上映されている。妹の道原真理子を演じた和田光沙(35)がニッカンスポーツコムのインタビューに応じた第2回は、兄にあっせんされた売春をする中、心が変化していく真理子を演じる中で考えた女性と障害者の性、愛情について語った。【村上幸将】

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真理子は、男性に体を売り、金を渡されたことを知った兄良夫(松浦祐也=38)が売春をあっせんし始めると、さまざまな男性と肉体関係を結ぶ。「お仕事」と口にするものの、嫌がるそぶりを見せない真理子…和田は女性として、どう思ったのだろうか?

和田 女性から見て、どうのこうのというのを、あまり意識してなくて…でも、取材を受ける中で、女性目線からも、すごく衝撃的だったと聞きました。確かに話を作り、撮影していく中でも、真理子が女性として、どうしていくかというのは片山さんも最後まで悩んでいらっしゃって…そこが物語の1番、大きな問題だったんですね。

劇中では、幼少期の真理子が性に目覚めた場面も描かれる。和田は女性も男性と同じように性欲があるにも関わらず、そこにふたをするような世の中の風潮に疑問を呈した。

和田 そもそも、女性だから男性に比べて性欲がないみたいな風に世の中でされちゃっているだけで、女性だって普通に性欲はある。ましてや障害があるから(性欲が)ないって、隠されて、ふたをされちゃっていることに私自身、疑問があって。欲望に忠実な真理子だけに、その欲(性欲)にも正直でありたい…きっと発散も出来ていなかっただろうし、女性としての恋とか恋愛もしていないだろうし。多分「冒険」と言って外に出た時、いろいろしたかったことが解放されて、こうなっちゃうんじゃないかなと、私は想像でやっていました。

真理子は売春を繰り返す中、客として関係を結んだ障害を持つ男性に対する愛情が芽生えてくる

和田 真理子にも、ちゃんと恋をさせたいというか、女性としての恋愛する喜び…体だけのことじゃなくて、心が通うセックスをさせてあげたいと思いました。それ(愛情が芽生えるところ)は、やりたかったんですけど、うまくできたかどうか…。片山さんに「そこ、真理子が好きだって分かるかなぁ」って結構、言っていたんですが、荒い編集の段階で見て、大丈夫だろうと。(男性役の)中村祐太郎君は結構、共演していたり、長編デビューもされている監督なので、彼が監督している作品に出演もしている。お互い知っているので。中村君が出てくれて本当に良かったですね。

真理子の心の中に愛情が芽生えたのに気付いた良夫も、変化していく。生活のために売春という犯罪に手を染めた2人の兄妹愛が、スクリーンからにじみ出す

和田 (演じている時は)そんなに兄弟愛も意識していなかったんですけど(兄妹愛が見えるのは)女性としても妹としても傷ついた真理子を、お兄さんが見捨てないで最後まで、寄り添っているところなのかなぁと。(売春を)やりたいか、やりたくないかということ判断を、ちゃんと妹にさせているところも…。ちゃんと真理子の将来のことを考えていますよね。

映画の終盤で、真理子がじだんだを踏むシーンは、和田自身の感情がむき出しになったように感じられる

和田 元々の台本では「ただ真理子が立っている。2人、寂しく帰っていく」みたいなシーンだったんですけど、何回かリハーサルと本番をやったら、片山さんが突然「ちょっと泣いてみましょうか」みたいに言ってきて…。最初は「何でですか?」みたいなことを言ったかもしれないですけど…。実際に泣いてみて気付いたんですけど、気持ちはあるけど、追いつかなくて、いろいろなことがどうしようも出来ない、抱えきれない真理子の気持ちが爆発した感じでした。

役と一体になった、ということなのだろうか?

和田 そうかも知れないですね。どっちかというと、真理子のことを思いながらという感じでした。叫んでみたら、気持ちが後からついてきた…それが片山さんのすごいところですよ。

和田は真理子を演じて、自らの価値観にも変化があったという。

和田 やっぱり私も、この作品でこの役をやるまでは、障害がある人たちは、かわいそうで助けなければいけないみたいに思っていたところがありました。そこが、全く自分たちと変わらないところで生きているということを実感できました。そういう価値観を1つ、得られたことで周りの人を見る目が、ちょっと変わったのかも知れません。

作品が高評価され、拡大公開される中で、早くも今年度の映画賞レースに絡むのでは? との期待の声も一部で出始めている。

和田 本当にビックリですね。まず、上映されるかどうかも分からない状態だったので。全国、何カ所かでやるというのは公開前から聞いていたんですけど、これだけ満席が続くとは本当に思っていなかった。やっぱり世の中の人たちが、それだけ衝撃的なもの、見ちゃいけないものとして入ってくれているのかも知れないですけど…どういう理由でも映画館に来てくれるのはうれしいですね。

真理子を演じたことで注目されながら「(映画賞レースは)特に…いいです」と苦笑いする和田に、女優業について聞いた。

和田 誰から頼まれたわけでもなく、元々やりたくて始めたので。仕事になっているかどうか、と言ったら結構、不安というか自信がないところ…女優業というところには、なっていないと思うんですけど。役者って、作品にしか育ててもらえないと思うんで…どういう作品と出会うかというのは結構、大事。映画も舞台も大好き。舞台は見るのも大好きですが最近、2時間なら2時間、ずっとその人物を演じ続け、お客さんに全身を生で見られる…役者が育つのは舞台だろうなと思っていますね。お客さんと一緒に作っている感じですし。舞台は機会があれば…でも、やっぱり映画は好き。やりたいですね!!

映画の、どこにひかれるのだろうか?

和田 舞台の場合は、ある程度、役者の思い通りになるところが多い気がするんですが、映画は自分の想像を超えてくるからですかね。映画の場合は、編集なりカメラマンの撮り方、演出、場所、空間もそうですし…いろいろな要素があって、いろいろな人の力で作っていく総合的なものなので、自分の想像もしないものが出来上がってくるので面白いですね。

映画にこだわる裏には悔しい記憶がある。映像作品に初めて出演した、2009年(平21)に日本映画学校の卒業制作「溺溺」だ

和田 「溺溺」は主役だったんです。1つの作品で、ちゃんとせりふがあって演じる初めての経験で結構、思い入れがあってやったわけです。役作りもして、気持ちも作って、もうやり切ったと思って…出来上がったものを見たら、自分の感情が全く、何も映っていなかったんですよ。講師の先生から「映画において気持ちは映らないんだぞ」って言われて…私、その時、何を言われているのか分からないし、とにかく打ちひしがれて、自分は何をやったんだろう…何も残せなかった、みたいな。そこが、私の中にずっとあって…映画って私にとって、ずっと分からない存在なんですよ。舞台だと残らないですし、お客さんが見たその瞬間ですから、その時の満足感でできちゃったりするんですけど、映画は残るし、正体が知れない…その怖さと面白さがあると思います。

和田にとって「岬の兄妹」は特別な作品になった

和田 どの作品もそうなんですけど、関わった作品は、やっぱり自分の財産だし、背負ってやっていきたいというのはあるので。今までやってきた作品も、どれも同じように大事…でも、これだけ多くの方の力をお借りしてやっている「岬の兄妹」は、大きく広がって欲しい。自分がどうのこうのと言うよりも、本当に1人でも多くの人に見てもらいたいということだけですね。女性にも、ぜひ見て欲しい。子供を産むとか産まないのを選ぶみたいな、どうやって生きるかという権利を、ちゃんと(女性も)持っているんだという主張…固く言っちゃうと、女性の権限みたいなものも描いている。受け取って、プラスの気持ちになってくれる女の人がいてくれたら、うれしいですね。

インタビューの最後に、和田に聞いた。

「『岬の兄妹』に兄妹愛はあったと思いますか?」

和田 今は…あると思っています。そもそも、私と松浦さんにも、信頼関係がすごいあると思うので、そこのベースがあっての作品。私たちが意識しなくても、ちゃんと届いたんだろうかなと期待しています。

「岬の兄妹」が3月1日に公開されてからも、和田は走り続けている。ピンク映画初主演作「牝と淫獣 お尻でクラクラ」が同月、上映された。そして今、岡山県真庭市を舞台にした映画「やまぶき」(山崎樹一郎監督)の撮影に臨んでいる。東日本大震災の被災地・福島から母子避難した身重女性らを描いた、社会派の群像劇だ。ジャンルを問わず、和田は作品と向き合い続ける。