三田村邦彦と中山麻理の息子中山麻聖が水谷映画主演

映画「轢き逃げ -最高の最悪な日-」で主演を務める中山麻聖は、シャープで落ち着いた表情を見せる(撮影・狩俣裕三)

俳優中山麻聖(30)が、公開中の映画「轢き逃げ-最高の最悪な日-」(水谷豊監督)に主演している。俳優三田村邦彦(65)と元女優中山麻理(71)の息子という七光ではなく、オーディションを受けて実力でつかんだ主役の座。その座り心地について聞いてみた。

中山が演じる主人公・宗像秀一は、大手ゼネコンに勤める若きエリート。副社長の娘との玉のこし婚を3日後に控えて、車で死亡事故を起こし、ひき逃げしてしまう。逃亡、結婚式、逮捕。暗転する人間模様を描く極限のドラマ。俳優水谷豊(66)が監督、脚本、そして1人娘をひき逃げされた父親を演じている。

中山は「これだけ大きな作品は初めて。オーディションの時は監督が誰なのか、どういう作品なのか分からずに受けていました」。450人を超す候補者の中から選ばれた理由について、水谷監督には「怖くてきいていない」と笑う。

母の麻理は、水谷と74年に日本テレビ系「傷だらけの天使」で共演した。「水谷さんから、当時食事をした話を聞いたので、母にしたら『そうだっけ?』って(笑い)。でも『すてきな先輩に出会えたんだから、いろいろ教えてもらいなさい』と言ってました」。父の三田村については「おやじも、すごく喜んでくれました」と言う。

撮影は1年前。神戸を舞台に約1カ月間、行われた。「いろいろと意識すると緊張にのみ込まれてしまうので、作品のことだけを考えるようにしていました。それでも周囲の方から『主演だね』と声を掛けていただく度にプレッシャーを感じていました」。

水谷監督からは「自分の価値観に固執しないで、なるべくフラットな状態で現場に来てほしい」と言われた。水谷監督の演出法について、中山は「監督自身が1度、僕の役を演じて見せてくれる。すごいのは、僕と相手の役の間に入って、僕の演技を見てくれる。相手の演技の時は、その逆。その場で、いくつもの役を演じて見せてくれました。『最初はものまねでいい』と言われました。何度も自分で繰り返すことによって、自分の中に落ちていくから、自然と出てくるまでやり続けていいと言ってくださいました」と振り返る。

演じる時に隣に来て、同じ目線で肩に手を置いてアドバイスをくれるという。「声を掛けていただくと、肩からスーッと力が抜けた。手でポンポンと子供をあやすような感じのリズムさえも、芝居のリズムに感じられました」と言う。

車で人をひくシーンはプロのスタントマンが演じた。後部座席でモニターを見ながら、その瞬間の衝撃を体感した。「その時のすごいインパクトが印象に残っています。あれ以来、プライベートでもハンドルを握るのが怖くなりました。どんなに気をつけていても、事故の可能性はゼロじゃない」と、より慎重に運転するようになった。

水谷は、俳優として娘をひき殺された父親を演じた。娘が亡くなった現場で、何かを確かめるかのように道路を手で押すシーンが印象に残った。「水谷さんと共演するシーンはなかったんですけど、あのシーンは現場で見ていました。グサッと心にきました」。

ダブル主演となる親友役の石田法嗣(29)もオーディションで選ばれた。「顔合わせの時に初めて会いました。ものすごく緊張した人間が、自分以外にもう1人いるというのは、心のよりどころになりました」。撮影している1カ月間、人の命を奪った役柄の罪悪感を抱え続けていた。「1日ごとにリセットされるよりも、ずっと神戸ロケで逃げ場がなかった。それで、かえって助かりました」。

昨年末に30歳を迎えた。「自分が思っていた30代とは、すごくかけ離れている。すごく大人のイメージだったので、自分がそうなれてないのは正直ショックです。もっと、やらなくちゃいけないことがたくさんあると思っています」。それでも、ひき逃げ犯という難しい役を演じたことで、新たな意欲が湧いてきた。「今回は罪を罪と思っている人間。それが当たり前だと思うのですが、そうでない役に興味が湧いてきました。人の命を奪うことを罪とは思わない、息を吸うように人を殺す、何か壊れているような役に挑戦してみたい」と話している。

昨年、座禅を始めた。「何かひとつのことに集中する。それが役者に、どうつながるかは分からないけど、挑戦してみようと思いました」。御利益については「あったと願いたいんですが(笑い)。オーディションの前からですから、それ(座禅の御利益)もあるのかな」と振り返った。

◆映画「轢き逃げ-最高の最悪な日-」 結婚式を3日後に控えたエリート宗方秀一(中山)は親友の森田輝(石田法嗣)を乗せ運転中に女性をはねる。2人は逃げるが、女性の死亡を知る。何者かの脅迫を受けるが結婚式は無事に終わる。1人娘を失ったと時山光央(水谷)千鶴子(檀ふみ)夫妻は、犯人逮捕の報告を受ける。刑事・柳公三郎(岸部一徳)から娘の携帯電話がなくなっていることを聞いて、違和感を抱いた時山は1人聞き込みを始める。その裏に真相が隠されていた。

◆中山麻聖(なかやま・ませい)1988年(昭63)12月25日、東京都生まれ。父は俳優三田村邦彦、母は元女優中山麻里の三男。。80年に結婚した両親は99年に離婚。タレント中山エミリ、英玲奈姉妹はいとこ。04年映画「機関車先生」で俳優デビュー。05年テレ朝系ドラマ「仮面ライダー響鬼」。06年ミュージカル「テニスの王子様」。12年映画「アノソラノアオ」主演。14年テレ東系「牙狼〈GARO〉-魔戒ノ花-」主演。特技はバスケットボール、剣道。182センチ、60キロ。血液型B。