岸恵子、松原智恵子の人間味豊かな発言に昭和を懐古

岸恵子(2019年5月17日撮影)

<ニッカンスポーツ・コム/芸能番記者コラム>

かつて「銀幕スター」と呼ばれた女優を取材する機会があった。「君の名は」(53年)で一世を風靡(ふうび)した岸恵子(86)と60年代にブロマイド売り上げ女優部門1位となった松原智恵子(74)だ。

岸は「ひとり語り 輝ける夕暮れ」を全国7カ所で公演中。松原は映画「長いお別れ」(31日公開)で蒼井優、竹内結子という一線の女優と見事にコラボしている。衰えない意欲にまずは拍手だが、発言の端々ににじむ「昭和の大女優らしさ」が印象的だった。

最近の訃報について聞かれると「このところニュースをあまり見ていないので」と岸。今月、京マチ子さん(享年95)が亡くなったことを知らずに「エッ、本当ですか? ショックです。共演させていただいたことは無いんですけど…」と心底驚いた様子だった。

都合の悪いことになると「その報道は見ていないので」ととぼける政治家とは違い、世間の喧噪から離れて暮らす「大物ぶり」を実感させた。

映画「約束」(72年)で共演した萩原健一さん(享年68)についてはさすがに関係者から聞いていたようで「才能のある人でした。共演したときは私が『少年のような人とやるのは嫌』と言ったものだから2歳上にサバ読んでいたんですよ。弟のように思っていて、私がフランスにいるときも実家の母のところに食事に来ていました」と家族ぐるみの付き合いを明かした。あけすけで心がこもっていた。

松原は「長い-」の撮影2日目に息子のような年齢の中野量太監督(45)に叱られたと明かす。「階段を掃除するシーンだったんですけど、私が真ん中からこすっていると、『違います。主婦は隅からきちんと拭くんです』と。監督は掃除のやり方もよく知っているんですよ」という。

松原はデビュー直後に名古屋に住む父親に撮影所のそばに家を建ててもらい、そこで住み込みのお手伝いさんと暮らしていた。「実はそういうことは今でもおまかせする人がいて、あんまりやったことがないんです」と、こちらも浮世離れしている。

最近では取材は分刻みで進められ、質問には用意されたような答が返ってくることが少なくない。効率化されることが悪いわけではないが、久々に「昭和っぽい」取材があると、正直ほっとする。