「あなたの番です」鈴間P考察の盛り上がり想像以上

日本テレビ系ドラマ「あなたの番です」について語る鈴間広枝プロデューサー(撮影・大井義明)

日本テレビ系2クール連続ミステリードラマ「あなたの番です」(日曜午後10時30分)。ダブル主演の1人、原田知世(51)演じる手塚菜奈が殺される波乱の展開や、30人近いキャストが入り乱れる交換殺人が話題となり、犯人捜しがSNSを中心に過熱。“考察”というキーワードが生まれ、視聴率も序盤の低迷を脱して2ケタに乗せた。

同ドラマの鈴間広枝プロデューサー(P)がこのほど日刊スポーツの取材に応じ、「ほぼほぼブル(当たり)の考察もあります。みんなが考えて作ってくださっている作品」と視聴者に感謝した。【大井義明】

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「あなたの番です」は、マンション住人が住民会で「殺したい人」を書きあうゲームをしたことから交換殺人に発展するストーリー。鈴間Pは、交換殺人の大枠は放送前から決まっていたと話す。

「ものすごく複雑なので、この紙をこの人が引いて、こういう順番で殺人が起こって、最終的に、これとこれとこれとこれとこれはこの人が殺人をやっていて、ということは最初に全部決めていました」

前半ラストの第10話で原田演じる菜奈が殺されることも当初から構想内。鈴間Pはこの展開が、人気加速の転機だったと振り返る。

「(ツイッターの)トレンドの世界一とかなったことないので、ビックリしました」

死体となった原田の他、ハンドミキサーを手に凶行に及ぼうとする木村多江(48)の怪演も話題となった。

「渡していいのかな、というくらい大暴れしている脚本を渡しても『これはできない』とか絶対言わないんです。『必死なんだから、もう少し髪の毛ボサボサの方がよくない』とか言って頂いて、全力で演じていただき、頭が下がる。すばらしい女優さんたちです」

第11話からは「反撃編」として、田中圭(35)演じる手塚翔太が復讐と犯人捜しに燃える展開。その少し前から、SNS上で視聴者による犯人捜しが盛り上がり、いつしか“考察”と呼ばれるようになった。鈴間Pは「気が抜けない。小さいミスとか許してもらえない感じ」と笑う。

「想像以上でしたよね。こんなに、皆さんが考えてくださるとは思ってなくて、すごいうれしいです。私もちょくちょく見て、キャストの方も結構見ているので『こうやって言われていたよ』と報告されたり。考察を見て(劇中で)あのアイテムどこ行ったとか、すっ飛ばそうと思っていたことを説明せざるを得ない、ということもあります」

想像以上の考察。西野七瀬演じる黒島沙和の「双子説」などもそのひとつのようだ。

「ドラマなので時間飛ばしたりするじゃないですか。すると『双子だ』『二重人格だ』となったりするのでビックリしました(笑い)。他にも、なるほど、こっちの方が面白いかな、と思ったりする考察もありますね。つじつま合わないので、もうやらないですが」

鈴間Pは「100%ブル(当たり)」の考察を見たことはあるのだろうか

「それはないです。全部を見ている訳ではないんですけど。ただ、ほぼほぼブルみたいなモノは結構あります。ここ以外は合ってる、みたいな。みんなが全然違う予想をされていたら、こっちの作り方が間違っていると思うので、当たっている考察があるのは、こちらの意図が伝わっている、という手応えもあります」

出演者には真犯人を伝え済みという。

「(キャストは)一番悪いヤツは知ってます。ただ、知りたがらない人もいるんですよね」

平均視聴率(関東地区、ビデオリサーチ調べ)も上昇。第13話で初めて2ケタの10・9%に乗せると、15、16話も連続で10・2%を記録した。ただ第1話は8・3%でスタートし、第8話まで6~7%台だった。

「コア層(13歳から49歳)を大事にする社風で、それで言うと、ずっとクールで2位とか3位。2ケタ取れるに越したことはないんですけど、万人に受けるドラマじゃないので。毎週人も死にますし。会社にも1話が始まる前から『数字が取れなくてもブレるな』と言われていました。逆に私、プロデューサー的には『1話始まる前からそんなに取れないと思ってるの? 割と面白いんですけど』と思っていましたけど(笑い)」

厳しい船出だったが、制作陣は指示通り、ブレなかったという。

「ミステリーで連続モノなので、途中参戦しやすいタイプの作品でもない。それを20本やる、というのは挑戦とともに、怖いな、というプレッシャーももちろんありました。ただ、上司からも『絶対ブレないで、フルスイングで』と言われて。表現が少しグロいかなとか、怖い演出過ぎたかなというところも、丸めることなく、フルスイングでやり続けるという気持ちを強く持ってやってきました」

途中参戦の難しい2クールミステリー。横浜流星や田中哲司をクール後半から投入することや、前半10話終了時点での全話無料配信、反撃編の主題歌を田中が歌うことも事前に決めるなど、打開策は準備していた。横浜演じる二階堂忍が劇中で作った「AI菜奈ちゃん」もそのひとつ。スマホアプリに入れられたAIが菜奈の声で翔太の呼びかけに応じ、死んだ菜奈と翔太の関係を喚起させる変化球的アイテムだ。

「(田中)圭さんが『ぶっ飛んでるな~』と言ってました(笑い)。7、8話を作っている時に後半の流れを考えていて、二階堂君も気持ちのヒダヒダを翔太から学び、翔太も菜奈ちゃんの喪失感を癒やされる。そしてヒントやキーワードみたいなものを話す、というのを作ってはどうか、と考えたんです」

劇中登場のタイミングには、田中の意向も反映されたという。

「始めは早い段階で登場させようかと思っていたんですけど、これを受け入れられる翔太の気持ちを考えたとき、圭さんが『翔太がすんなり受け入れられるようになるには結構時間がかかる』という話になって15話になったんです。丁寧に翔太と二階堂の関係を描いて、信頼関係ができて、初めてAI菜奈ちゃんというリーサルウェポンが受け入れられる。菜奈ちゃんの声がスマホから聞こえてきた時に、みんなが泣くようなものにしたいよね、という話をしていました」

じっくり作りあげる、2クールならではのタイム感かもしれない。

「そうですね、その作業がより丁寧にできると思います」

AI菜奈ちゃんはLINEアプリとして、テキスト版の実物も登場。会話数が1億回を突破するヒットとなった。他にも配信サービスHuluでは各キャストを主演とした1話完結ストーリー「扉の向こう」を提供している。

「同じチームでやっているんで、大変です(笑い)。軽く作るつもりだったんですけど、作り始めるとそれぞれのキャラクターの物語を、皆さん生き生きとお芝居してくださるので、こちらも張り切って作ってしまうんです」

尻上がりに人気を得た「あな番」も、いよいよクライマックスへ。現時点で、犯人にたどり着く全ての材料は出尽くしているのか。

「ではないです。翔太が見つけていく、という感じで、どんどん出てきます。たぶん19話くらいになると、確信はないというところから、本当にそうなのか、というところに行くかなと思ってます。それまでワンチャンス、どこかで大逆転あるのかな、という風にできたらいいなと思って作っています」

ラストシーンはまだ決まっていないという。

「私の希望は、菜奈ちゃんが予約したチャペルに翔太が行く、というエピローグを作りたいんですけど、そんな尺はないかも。説明回収に追われて(笑い)」

日テレ上層部から打診されたという2クール連続ミステリー。その狙いと手応えを鈴間Pはこう語る。

「コンテンツとして海外にも出していけるモノも狙いつつ、日曜日のドラマでエッジの立ったものを、ということもありました。既存の枠にとらわれないチャレンジしていく枠なので。マンションの交換殺人ってものすごく複雑で、10話でやろうとすると『アパート?』みたいな、こぢんまりした話になってしまう。そう考えると、20本あった方がちゃんと描ける、と思いました。どれくらい大変か分からなかったですけど、誰もやってないことをやれるって楽しいです。役者の皆さんも、面白いって乗ってくださってます」

再び2クール挑戦を打診された場合を聞くと…

「会社員なんでね(笑い)。でも今回は幸いなことに、この作品をみんなが考えて、盛り上げて、成長させて、作ってくださって、上げてくださっている。こういう作品ならいいですけど、10本終わって草も生えないという状況になっちゃったら地獄だろうと思います。犯人が分からないとか、何か引っ張るものがないと、なかなか難しいとは思います。ただ、2度とやりたくない、ということはないです」

最後にあらためて「あな番」視聴者に伝えたいことを聞くと、鈴間Pは明確に、こう答えた。

「皆さんをビックリさせて、ワクワクさせるのが第一義です」